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地球の片隅の物語
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ルポ・エッセイ
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小説の出番

『地球の片隅の物語』
[著]曽野綾子 [発行]PHP研究所


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(初出:『Voice』一九九六年四月号)



 先日ネパールのカトマンドゥへ行った時、シバ・テンプル・ガートで、火葬を見た。


 聖なる川、といっても、大して水量もなく護岸された平凡な川だが、近付いて行くと、夕暮れの中で、赤い火と(もう)(もう)たる煙が見え、煙には一種独特の匂いがする。一瞬、そうだったか、来るのを止めればよかった、と思ったが、もう遅かった。インドのアグラに数週間いた時、ガンジスの支流であるジャムナ河畔の火葬の話は聞いていたが、特に見に行かなかったので火葬を見るのは初めてであった。川の所々に、コンクリートの小さなステージのような構造物があり、そこで焼いている。ステージはちょっと見ただけでも六、七カ所くらいはあって、五カ所くらいに炎の色が見えた。


 死者は(遠目に見た限りでは)白い布に包まれただけで、お棺はなしに運ばれ、その間に人びとは火葬の薪を井桁に積む。ネパールはまだ森があるからいいけれど、インドの木の生えない地方などで火葬の薪を買うのは、貧しい人びとにとっては相当な出費である。だから薪の量を惜しむと、充分に焼けないうちに火が落ちてしまうこともある、と見て来たようなことを教えてくれた人もいるが、その場合でも、そのまま遺体は川に流すという。


 火葬には、女性の家族は立ち会わない、と同行のネパール通のイタリア人が教えてくれた。ほとんどのグループはそうなのだが、中には女性が立ち会っている組もある。長男が白い衣を着て、頭を剃り、火葬の火の傍に付き添っている。


 遠くからのせいかもしれないが、泣き声のようなものは聞こえない。日本の火葬場だって、そう言えば声を立てて泣く人は少ないのかもしれないが、むき出しの火葬場を初めて見ていると、そこで焼かれているのは人間ではなく、人間が脱ぎ棄てて行った古い「衣服」という感じがしなくもないのには、我ながら意外であった。

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