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改訂版 社会的ひきこもり
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生き方・教養
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改訂版まえがき

『改訂版 社会的ひきこもり』
[著]斎藤環 [発行]PHP研究所


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『社会的ひきこもり 終わらない思春期』(一九九八年)は私にとって、ことのほか思い入れの深い本です。私の単著デビューは、この本に数カ月先立って出版された『文脈病』(青土社)でしたが、この本は私が一般向けに書いたはじめての本であり、また私の著書のなかではいまだ唯一の「ベストセラー」でもあるからです。


 さすがに二十年ほど前の本ということもあって、今回の改訂版を出すにあたって一通り読み返してみたのですが、意外なほど内容が古びていないので安心しました。もちろん細かいところで状況が変わったり、考え方を変えたりしたところはあります。しかし対応の基本方針は、現在もそれほど変わっていません。これは私の進歩がないせいなのか、あるいは弱冠三十代にしてすでに卓越した精神科医だったためなのか、後者と思いたいのは山々ですが、そのあたりの判断は読者に委ねたいと思います。


 せっかくこの改訂版を手にとってくださった方のために、本書の変更点について簡単に述べておきたいと思います。


 まず、ひきこもりの定義です。「六カ月以上社会参加をしていない」と「ほかの精神障害がその第一の原因とは考えにくい」の二つは、その後も厚生労働省や内閣府の定義としても使われており、変更はありません。


 ただ最初の定義にあった「二十代後半までに問題化する」の部分は、現代ではもう通用しないため削除しました。三十代、四十代からひきこもる人が急増しつつあり、そのこともあってひきもりの高齢化が急速に進行しつつあるからです。


 元の本では、ひきこもり人口を「数十万人」と推定している箇所がありました。また、当時受けた雑誌のインタビューでは一〇〇万人とも述べており、この数字は本書の帯にも使われていました。当時はまだ国や自治体の調査などはなされていませんでしたから、この推定は体感的なものでしかなかったのですが、それほど「外れ」ではなかったことが最近の調査でわかってきたのです。


 二〇一六年に内閣府は、十五~三十九歳を対象にした「ひきこもり」実態調査の結果を公表しましたが、それによると日本全体でのひきこもり人口は推計約五四万一〇〇〇人でした。また二〇一九年にも内閣府は、四十~六十四歳のシニア層を対象とした「ひきこもり」調査結果を公表していますが、こちらでは全国で推計六一万三〇〇〇人でした。単純に加算することはできませんが、それでも一〇〇万人以上がひきこもっているという現状がはじめて明らかになったのです。同時に、これまで「若者問題」と思われてきたひきこもりが、すでに全世代の問題になりつつあることもわかり、社会に大きな衝撃を与えました。いまやひきこもりは、どこでも、誰でも、何歳からでも起こりうると考えるべきなのです。



 ひきこもり人口の増加とともに、現在問題になっているのは、先にも述べたひきこもりの高齢化です。「八〇五〇問題」という言葉があります。文字通り、八〇代の親が五〇代のひきこもりの子の世話をしている家庭を意味する言葉ですが、こうした状況がまれなものではなくなりつつあります。


 私は二〇一四年に「社団法人 青少年健康センター」が主宰する家族会の参加者にアンケート調査を行いましたが、この時点で当事者の平均年齢は三十四・四歳、親の平均年齢は六十五・五歳、平均ひきこもり期間は十二年十一カ月と、深刻な高齢化傾向、長期化傾向があきらかになりました。わが子のケアに疲弊した家族の多くが、うつ状態の高いリスクを抱えていることもわかりました。


 高齢化をもたらした要因は、おおきく分けて二つあります。一つは、本書でも述べている長期化傾向です。自助努力や自然な回復に期待できない以上、なんらかの支援がなされなければ、ひきこもり状態は必然的に長期化します。もう一つの要因は、さきほども述べたひきこもり開始年齢の上昇です。かつては不登校の延長線上でひきこもりが起こることが多かったので、ひきこもり開始の平均年齢は十五歳でした。しかし今回の調査では、平均二十一・二歳と、大きく上昇していました。これは近年、いったん就労したにもかかわらず、退職後にひきこもる事例が増加したためと考えられます。


 こうした高齢化傾向は、今後ますます顕著になるでしょう。ここで「親亡き後」という新たな問題が浮上してきます。親亡き後のひきこもり当事者は、福祉に頼るしかありません。そうした単身者が一〇万人単位で出現すれば、福祉財源が大きく圧迫されるでしょう。もっとありそうな事態としては、多くの当事者が福祉の利用も申し出ないまま、孤独死を余儀なくされることです。


 二〇一二年に私とファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんが共著で出した『ひきこもりのライフプラン』(岩波書店)は、経済的な「ライフプラン」という視点から、ひきこもりのサバイバル方法を解説した最初の試みとなりました。

『社会的引きこもり 終わらない思春期』が出版されて二年後の二〇〇〇年に、柏崎少女監禁事件と西鉄バスジャック事件が起こり、これをきっかけとして「ひきこもり」という言葉は一気に広がりました。こうした状況を受けて、二〇〇三年に厚労省が最初のひきこもりに関するガイドラインを出しましたが、十分なものとは言えませんでした。二〇〇七年から厚労省の研究班(私もメンバーの一人でした)が三年越しの調査研究に基づいてまとめた「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」は、医療寄りではありますが、具体的な対応に踏み込んだ内容となっています。


 ほかにも厚生労働省は、二〇〇九年度から「ひきこもり対策推進事業」を創設し、すべての都道府県と政令指定都市に「ひきこもり地域支援センター」を設置しており、現在はここが最初に相談する窓口として機能しています。また、「ひきこもり対策推進事業」は「生活困窮者自立支援制度」と連携してひきこもり当事者を支援することが推奨されており、当事者の自立に向けた包括的な支援を行っています。


 一般的な出口としては就労支援がありますが、こちらの窓口も二十年間でかなり進歩がありました。中でも利用しやすいのは「地域若者サポートステーション」でしょう。利用者の年齢制限(三十九歳まで)はありますが、障害の有無を問わず、就労に自信のない若者ならば誰でも利用できます。障害者枠での就労としては、「就労継続支援」や「就労移行支援」が利用できます。こちらは年齢制限が実質ありませんので、シニア世代のひきこもりの方も、以前よりははるかに就労しやすくなりました。以上は、数少ないポジティブな変化です。問題は、支援体制が整備されるよりもはるかに急速に、ひきこもりの高齢化や増加が進んでいることです。



 現在の私がひきこもり支援についてどのような姿勢で臨んでいるか、ここで簡単に説明しておきます。


 改訂前の本書では、私ははっきりと「ひきこもりは治療を受けるべき」と述べていました。あるいは「ひきこもり状態が数年以上続いて慢性化したものは、家族による十分な保護と、専門家による治療なしでは立ち直ることはできません」とも。もちろん強制せよ、という意味ではありませんが、こうした「治療の必要性」のくだりは、やや「若気の至り」でした。改訂版では訂正しています。


 ちょっと弁解しておくと、当時の私は、「ひきこもったままでいい」などと無責任に放言する「有識者」の人々に、かなり強いいらだちを感じていました。不登校やひきこもりに治療的に関わることが人道上の罪であるかのような批判にも怒りを感じていました。放置して解決するならそうしたいのはやまやまですが、そういう態度が現在の「八〇五〇問題」につながっていることを思うなら、せめてニーズに応えられるよう準備はしておきたい。


 とはいえ、誰にでも一律に支援の押し売りをするつもりはありません。私から見れば、ひきこもりは「病気の人」というよりは「困難な状況にあるまともな人」です。だからこそ、ひきこもり当事者のニーズは多様です。支援を求めないひきこもり、支援を求めるひきこもり、いまは支援を必要としていないが、潜在的に支援ニーズを抱えたひきこもり、本人は必要としていないが親が支援を求めているひきこもり、など、さまざまな人がいます。


 ならば「ニーズがないひきこもり」は放っておくべきなのか。それも違うと思います。今はかたくなに拒否していても、家族関係が修復されることで、そうしたニーズが生まれてくることがあるからです。だからこそ、機会あるごとにアプローチを試み、チャンスがあればニーズを尋ね、断られればまた次の機会をうかがっていきたい。


 ちょっと、お節介に見えるかもしれません。ただ、このような「マイルドなお節介」という支援のあり方は、近年、依存症業界などでも推奨されつつあるようです。当事者に対して決して押しつけや強制をしないという条件で、なんとか許してもらいたいというのが、今の私の願いです。



 最後に、この二十年間で、個人的に一番大きかった変化について述べておきましょう。


 近年、私たちは、ひきこもり支援にオープンダイアローグ(開かれた対話、以下OD)を応用することを試みています。ODとは、フィンランド・西ラップランド地方にあるケロプダス病院のスタッフたちを中心に、一九八〇年代から開発と実践が続けられてきた精神病に対するケアの技法/システムです。薬物治療や入院治療をほとんど行うことなく、対話のみで良好な治療成績を上げており、近年、国際的にも注目されつつあります。その詳しい内容については、拙著『オープンダイアローグとは何か』(医学書院)や『開かれた対話と未来』(医学書院)をご参照ください。


 ODの中核にあるのは、徹底して他者を尊重する「対話」の姿勢です。あるひきこもり当事者の言葉を借りるなら、説得や議論は当事者の力を奪ってしまいます。ひたすら丁寧に本人の声に耳を傾け、それに誠実に応えていく「対話」によって、それぞれの立場の「違い」を掘り下げていくと、その過程そのものが当事者をエンパワーする効果を持つとされます。つまり良い対話を続けていくだけで、巧まずして改善や回復が生ずるわけです。私たちはODがひきこもりに対しても有効であることをすでに確認しており、家族会でもその応用をはじめています。


 実は私は本書において、当事者との「会話」の重要性を、繰り返し強調しています。日常的な気軽なおしゃべりを続けていくことが、本人との関係を改善し、安心/安全な環境を準備し、主体性を回復する上で重要であること。私は二十年来、家族会や講演会で、このことを一貫して強調してきました。その意味でODとの出会いはなかば必然であり、今後はさらに洗練された対話実践を支援に導入することが可能になるでしょう。本書を読む方には、ぜひとも本書の「会話」とある部分を「対話」に置き換えて読んでいただきたいと願っています。


二〇一九年十二月十五日  師走の高松空港にて

斎藤 環

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