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(2021/11/26 追記)

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改訂版 社会的ひきこもり
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生き方・教養
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『改訂版 社会的ひきこもり』
[著]斎藤環 [発行]PHP研究所


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 現時点では、増加し続ける社会的ひきこもりの問題に対して、政策として有効なものが、まったくあらわれていないようです。しかし、治療的な対応策すら不十分な現状で、「自然治癒」がほとんど起こらないこういった事例が、今後ますます増加し続けるであろうことは明らかです。「ひきこもりシステム」という発想は、この問題が、事例個人に対する対策だけでも、家族に対する対策だけでも足りず、全体的な政策としての対策を要請するためのものでもあります。


 厚生省は一九九一年度から「ひきこもり・不登校児童福祉対策モデル事業」をはじめています。しかし驚くべきことに、この事業は十八歳以上を対象外としているのです。これでは「社会的ひきこもり」事例のおよそ九割以上を除外することになり、対策の意味をなしません。児童相談、教育相談の窓口も、十八歳以上は受け付けなくなります。また本来の主たる受け皿であるべき医療機関の貧しい現状は、これまで何度か指摘してきた通りです。


 本書をしめくくるにあたって、私はやや大きな視野から、このような現状に対しての提言を行いたいと考えています。


 まず必要であるのは、社会全体に対する「社会的ひきこもり」という現象の啓蒙活動です。人によっては、まったく縁のないこうした事例が、すでに社会現象といいうる規模で発生しつつあること。私はそれを広く知らしめるためには、やはり定義をしっかりすべきであると考えます。こうした判定のガイドラインを十分に策定することで、対策の枠組みを作りやすくなるでしょう。


 また、こうした啓蒙活動は、精神医学の内部でもなされる必要があります。社会的ひきこもりの問題は、明らかに、精神科医が扱うべき問題です。この「扱うべき問題」が、「否応なしに扱わざるをえない問題」へと変わるのは、もはや時間の問題でしょう。ただし、ここに問題があります。わが国の精神科医にもっとも大きな影響力を持つ、日本精神神経学会が、「ひきこもり」の問題については、きわめて消極的であるという事実です。私自身、この学会で、二度にわたりひきこもり問題に関する発表を行いましたが、一度目は「ひきこもり問題は存在しない」という反応を受けました。そして、二度目の発表は、ほぼ完全に黙殺されました。私の力不足といわれればそれまでですが、しかしアンケート調査の結果にも示したように、この問題はいまだ精神医学の問題としては認知されていないようなのです。精神分析的な言い方をするなら、多くの精神科医が「否認」したがっているもの、それが「ひきこもり問題」ではないでしょうか。


 しかし私は、まだあきらめてはいません。論文を含むさまざまなかたちで、私自身が啓蒙活動を続けていくことができるでしょう。またインターネットを利用して他の治療者との連帯を強化し、情報を共有し知見を集中させられるようなネットワーク的展開を考えています。いずれにしても、まず私たち臨床家が、この問題を正確に認識しつつ手を組むことが最優先課題です。このネットワークが充実すれば、相談窓口の少ない地方の家族にも、希望をもたらすことが可能になります。


 あるいは私は、家族相談、家族指導という機能については、例えば保健所などがそうした窓口にならないものか、とも考えます。本書で述べてきたように、ひきこもり事例への初期対応は、それほど高度の専門性や、臨機応変さを必要としません。その意味では、ごく基礎的な常識を家族に伝え、それを家族が実行するだけで救われる事例がどんなに多いことか、と考えてしまいます。


 ついで重要となってくるのは、家族会と「たまり場」です。現在、私自身も啓蒙活動と相談を兼ねた一種の家族会を運営しています。私がいうように、もし「家族のひきこもり」が問題であるのなら、まず同じ問題を共有する家族が連帯する必要があります。しかし残念ながら、こと社会的ひきこもりの事例に関しては、ここでも受け皿がありません。ほかの精神障害や、不登校に関してなら、ずいぶん増えてきているのですが。しかし、あきらめるには及びません。少ないながらも、そうした家族会は徐々に形成されつつあります。また、現時点では、ほかの精神疾患の家族会に入会されるという方法もとりうるでしょう。とくに、統合失調症の患者さんの家族会や、薬物依存の家族を持つ人のための家族会などは、対象は異なりますが、事情を理解してもらった上で参加できれば、非常に参考になると思います。


 ひきこもっている本人の受け皿も、もちろん整備していく必要があります。私はさきに紹介したMクラブのような「たまり場」が、各地にこれから増えていくことを期待しています。このほか青少年健康センターでは、ビル清掃のアルバイトを斡旋しています。なかなか好評のようで、事実、これがはじまってから、はじめて就労に成功する事例が多数ありました。雇用主にある程度の事情を説明して、欠勤や遅刻を少々大目にみてもらっているだけなのですが、それだけでも随分、敷居が低くなったようです。このように、理解のある雇用主によって就労環境が整備されれば、新たな可能性が広がるでしょう。


 また、中には、どうしても家から出かけられないという段階にとどまっている人もいるでしょう。そういう人のためには、パソコンを利用した就労環境の整備がなされるべきでしょう。すでにインターネットを介して、在宅勤務をしている人の数は増加しつつあります。たとえパソコンを介してであっても、他人と繋がることはきわめて有意義であることは、別の章で述べました。同様に、パソコンを介してであるにせよ、就労し、報酬をもらうことは、その先の展開へと必ずつながるはずなのです。


 そして、私たち自身に今からでもできることは、増加しつつある「社会的ひきこもり」という現実を、目前の事実として受け入れることにほかなりません。その存在を性急な批判によって「否認」するのではなく、まず正確に認識し理解すること。まさにこうした「理解」の普及それ自体が、膠着した「ひきこもりシステム」の解除を促進し、あらたな事例の増加を予防しうると私は信じています。

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