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「トビタテ! 世界へ」(リテル)
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ミステリ小説
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第3章 「トビタテ!留学プロジェクト」の始動

『「トビタテ! 世界へ」(リテル)』
[著]船橋力 [発行]PHP研究所


読了目安時間:41分
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 このころ(2012~13年)、YGLのメンバーは、発足して間もない安倍晋三政権の閣僚や、中央省庁の官僚から国際情勢やグローバル人材の育成、教育政策の課題についてヒアリングを受ける機会が増えていました。きっかけは東日本大震災。歴史的な災害に見舞われたことで、日本社会は大きな不安のただなかにいました。


 少子高齢化も加速し、内需の拡大が難しいなか、復興と並行して、国外にマーケットを求めなくてはなりません。それには世界を舞台に活躍できる人材を育てる必要があります。政府はそう危機感を強め、政策の参考になる情報を得ようとしていました。


 私自身、世界経済フォーラムが主催する会議や研修に参加する中で、日本の将来に危機感を抱くと同時に、可能性についても強く認識しました。「このままではいけない」という当事者意識が芽生えていましたから、こうした場に参加できるのはありがたいことでした。


 そうしたなか、YGLメンバーでもある自由民主党の牧原秀樹衆議院議員(現経済産業副大臣)のセッティングで、2013年4月9日の夜、下村博文文部科学大臣(当時、以下すべて)とYGLのメンバーとの懇談会が都心の中華レストランで開かれました。


 円卓に座ったのは、私の他、ETIC.の宮城治男さん、ソフィアバンクの藤沢久美さん、ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパンの小林りんさん、楽天の創業メンバーの小林正忠さんら計6人。文部科学大臣に呼ばれるとなると、テーマは教育です。参加メンバーには、教育に造詣の深い人も少なくありませんが、その中で教育ビジネスに深く関わっているのは私です。


 気負いはありませんでしたが、「自分の思いを届けよう」「政策に活かしてもらおう」という前向きな気持ちで臨みました。大臣からは

「今の日本の教育の問題について遠慮なく語ってほしい」


 と求められました。私たちは、ダボス会議に参加したときに日本について何も語れなかった恥ずかしい共通体験や、日本人が外国人に比べてあまりにも自分の国について語れない現状を説明した上で、

「良いことも悪いことも含めて、日本について、正しく学べる『日本』という授業が必要ではないか」

「ダボス会議のような場をなるべく多くの日本人が体験したほうがいい。意欲ある若者は、学生のうちからどんどん外国に送り出すべきだ」


 と訴えました。


 宮城さんは、座学で学ぶような留学だけではなく、インターンをしたり、途上国で社会貢献をしたりする実践型の留学を提案しました。それも、誰かが用意したものではなく、学生自身が留学計画を作成するという画期的なアイデアでした。


 国の奨学金制度とはまったく違う制度設計が必要だという意見も出ました。税金を使う奨学金制度では、どうしても成績や語学力、それに世帯年収といった数値化された基準によって選考されますが、それでは多様な学生を送り出すことはできません。民間の寄附を入れることで、のびしろのある、とんがった人材を海外に送り出すべきだという議論に発展し、

「企業で人を採用するとき、大学の成績などほとんど見ていません。それより意欲とか情熱が大事では?」

「国だけで進めてもうまくいかないので、民間の力を活用するべき」


 という率直な議論になりました。


 大臣自身、そうした新しい留学制度の設立にとても積極的でした。

「自分は父親を交通事故で亡くし、あしなが育英会の前身団体の奨学金で早稲田大学で学んだ。海外に行きたいという情熱があって、必死でアルバイトをして貯めた数十万円を手にして念願のアメリカ留学を果たしたが、その頃には資金を貯めるための過労・心労で、燃え尽き症候群のような状態になってしまい、思うように学べなかった。だから学生には、金銭的な苦労をさせず万全の状態でいかせたい」

「本当は大学を世界基準で9月入学にし、高校を卒業した後の約半年の大学入学前に全員、ギャップタームという形で数カ月、留学だったり、ボランティアだったり、大学で何を学ぶのかを再定義する時間をもった方がいいと思う。場所によっては一人30万円くらいでも行けるはず。全員を送れるような状況が本来はあった方がいい」


 そのような特別な思いを語っていただきました。


 その後も大臣とメンバーからは次々と具体的な意見が出され、

「2020年までに1万人を海外に送り出そう」

「官民ファンドを創設し、オールジャパンでやるのはどうか?」

「民間からの寄附の方が柔軟性が高い、新しいことができるはず」

「学生一人あたり200万円が必要だとして、200億円を目標に集めよう」


 という、今につながるコンセプトや数値目標が、その日のうちに固まっていきました。「単なる懇親の場」での議論が現実のものになるとは想像もしていませんでしたが、国の政策に活かされたらいいな、という思いでいっぱいでした。


 驚いたのは、会合の翌日に、文部科学省の担当者を通して、「改めて、プロジェクトを実行しよう」という、下村大臣からの連絡があったことです。


 もちろん、文部科学省内部で「グローバル化等に対応する人材力の強化」という大枠は決まっていて、日本人留学生を増やすことは既定路線でした。けれど、官民協働とか、民間の寄附で1万人を新たな枠組みで送り出すといった構想は、このとき生まれたものです。


 これだけの規模の政策が一夜にして現実味を帯びたことに驚かされました。まずは下村大臣個人のリーダーシップに、そしてトップダウンとはこういうものなのかと、「ポジション」のもつすごみを肌で感じました。


 その後2回、下村大臣、文部科学省幹部、若手官僚、セブンイレブンの伊藤順朗取締役、ヤフーの宮坂学社長(現東京都副知事)をはじめとする企業経営者、品川女子学院の漆紫穂子校長(現理事長)らと意見交換の場が設けられました。プロジェクト実現を前提とした有識者に対するヒアリングでした。


 そのときの意見も参考に、宮城さん、藤沢さんと文部科学省の若手官僚の方々と議論を重ね、プロジェクトのスキームを作っていきました。まだ、その後、自分が責任者になるとは思っていませんでしたが、国家プロジェクトが動き出したというわくわく感はありました。


 そして、わずか2カ月後の2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略~JAPAN is BACK」等において政府は、2020年までに海外留学者数を倍増(大学生:6万人→12万人、高校生:3万人→6万人)させることを目標に掲げたほか、官民が協力した新たな海外留学支援制度を創設することが謳われました。


 その年の9月には、中国の天津で開催された夏季ダボス会議に下村大臣の参加を提案しました。目的は、日本からの企業経営者や政治家などに、トビタテの構想を披露すること。加えて、大臣にも待ったなしのグローバル化の状況やダボス会議の雰囲気を肌で感じていただき、今後の留学プロジェクトや教育政策を進めるうえで、参考にしていただきたいという個人的な思いがありました。


 文部科学省と藤沢久美さんのアレンジで、世界各国の教育関係者やキーパーソンと下村大臣の会談が分刻みで設定され、夏季ダボス会議の共同議長だった三菱商事の小島順彦会長(当時)ら、日本の財界の方々20人ほどを集めての朝食会もセッティングしました。

「文部科学省が旗振り役となり、これまでにない枠組みである民間の資金を使った海外留学制度を設立する。

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