『思い出すと心がざわつく こわれた関係のなおし方』
[著]イルセ・サン
[訳]浦谷計子
[発行]ディスカヴァー・トゥエンティワン
もし、親しかった誰かと疎遠になったまま、そのことを放置してきたとしたら、どうすれば、その人とのあいだに信頼を取り戻し、わだかまりを解消できるでしょうか?
たとえば、家族や友人で、会えなくなってしまった人はいませんか? あるいは、会ってはいるけれど──いえ、一緒に暮らしてさえいるのに──昔のように素直で温かいつながりを感じられなくなった人は?
私は牧師として、またのちに心理療法士として、人間関係にまつわるさまざまな悩みに耳を傾けてきました。
そのなかで気づいたのは、こわれてしまった人間関係を修復する手立てを知らない人が多いということです。関係を修復するというと、つい、自分の言い分を伝えることのように思いがちですが、その種の説明はむしろ事態を悪化させかねません。釈明や弁明よりも、はるかに有効な方法があるのです。
本書では、うまくいかなくなった人間関係を回復・改善するためのさまざまな手立てをご紹介していきます。具体的な事例を引き合いに出しながら、シチュエーションごとに役立つフレーズや表現を盛り込んでいます。
各章末のエクササイズは、あなた自身の考えや感情、そしてあなたの人間関係の課題をより明確に把握するためのものです。感情を揺さぶるようなエクササイズもありますから、取り組む前に、話し相手になってくれそうな友だち(第三者)を見つけておくことをおすすめします。
最初から最後まで読んでくださってもいいし、自分に当てはまる部分を拾い読みしてくださってもかまいません。目次と各章末のまとめを見れば、必要な情報がどこに書かれているかがわかるでしょう。
人間は、一生のあいだ、変化しながら成長していくものです。ある人との友情が変質し薄れていく一方で、別の人とのあいだに友情が芽生えたりもします。それはいたって自然なことなのです。
本書はあなたに、何がなんでも過去にしがみついているようにおすすめするものではありません。けれども、思い違いやいさかいのせいで、こわれた人間関係にけじめをつけずにいるとしたら、今一度立ち止まって、関係修復のための手立てがないか考え直してみるだけの意味はあるでしょう。
基本的に私は、人間関係は維持するべきものだと考えています。
一度は投げ出してしまったような関係でも、やり直す方法があるということに気づいてほしくて、この本を書きました。
ただし、どんな人間関係でも続けていくことが最善の道だとは言いません。ときには、相手との関係を手放すことが、自分自身の幸福のために必要であったり、痛手を最小限にとどめたりする場合もあるのです。関係を終わらせるほうがよい(あるいはよくない)ケースについては、第12章で述べていますので、参考にしてください。
本書で取り上げる事例は、私が牧師としてカウンセリングを行っていた頃のことや、その後、心理療法士としてカップル療法に従事したり、親子関係の修復の手助けをしたりするなかで耳にした人間関係にまつわるさまざまな悩みごとがもとになっています。また、私自身の経験も含まれていますが、そのいきさつは「プロローグ」に書きました。
巻末には、特別な診断テストをご用意しました。疎遠になってしまった人に対してアプローチしようという、あなたの意欲の度合いを測るためのものです。現時点での自分の心構えがどれくらいのものかを、知る手がかりになるでしょう。
2020年2月 イルセ・サン