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歴史探偵 昭和史をゆく
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歴史
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第一話 心変わりした理由──張作霖爆殺事件

『歴史探偵 昭和史をゆく』
[著]半藤一利 [発行]PHP研究所


読了目安時間:20分
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1、陸軍中央の陰謀であった



 いわゆる昭和史前半の“十五年戦争”の導火線に、火を点じたともいえる昭和三年六月の「満洲某重大事件」張作霖爆殺が、いまでは日本陸軍の陰謀であることは明らかになっている。しかし、当時、なぜあれほど早くバレてしまったのか。歴史探偵としては、いつも気になってならぬことであった。それでも、そんな疑問を解くカギとして、岩波新書の森嶋守人の著書『陰謀・暗殺・軍刀』に、奉天総領事林久治郎の慧眼がありありと書かれていることは知っていた。こんど別の必要あって松村謙三『三代回顧録』(東洋経済新報社)を読み直して、もっとはっきりしたことが、まことに嬉しかった。


 それにはこんなふうに語られている。暗殺直後に偶然に現地に着いた松村が林総領事から、思いもかけぬ真相を聞かされるのである。現場には二人の中国人の死体があった。関東軍はこの二人が犯人であると主張しているが、二人ともアヘン中毒者でとてもこれほど綿密で大胆な仕事ができるはずのないということ。しかも日本軍の監視所から爆薬を埋めたところまで電線がそのまま残っていた。これではいくら糊塗しようとしても、立ちあい調査した中国側にすぐバレてしまったということ、云々(お粗末な工作であることよ)


 さらに、ある小冊子に載っていた東京大学教授杉浦光夫氏のエッセイを読んでびっくりすることがあった。単に出先きの関東軍の陰謀にとどまらないという。そこで氏が指摘する『小川平吉関係文書』を改めてとり出してみた。なるほど、この大著のなかの、小川が中国に派遣していた工藤鉄三郎からの報告書簡に、注意して読むと、面白いことが書かれている。


 それによると、現場にあった二つの死体は、伊藤謙次郎を通じての主謀者河本大作大佐の頼みで、安達隆成が反張作霖派の劉戴明から提供させたものであった、とわかるのである。


 こうして何年ぶりかの復習となって、この大著のここかしこを探偵よろしく、しばし嗅ぎまわった。書簡によれば、この殺された二人の中国人の家族へ渡す金や、劉戴明を大連へ逃がすための資金などを、満洲の工藤と安達が、東京の小川に依頼してきている。金のかからない陰謀はないから当然の話。これにたいして小川が五千円送った。ところが、この金の大半がなんと陸軍中央から出ているのである。つまり陰謀は単に関東軍によるものだけではないことを、明らかにしている。


 昭和四年七月二十三日付の白川義則大将の小川宛書簡が、終りのほうに載せられている。

拝啓、今朝御電話之件に付漸く参千丈調之候間可然御取計被下度候。申す迄もなく既に交代後に付今後は小生の手にても最早処置致兼候次第御諒承被下度候。敬具」


 そしてつづいて、七月三十日付の工藤・安達両名の小川宛電報。

御好意謝す。三〇確かに受取った。工藤、安達」


 白川大将は、昭和四年七月一日まで田中義一内閣の陸相であったが、七月二日に内閣が総辞職して宇垣一成大将と交代している。書簡にある「既に交代後」とはそのことをさす。しかし爆殺当時は陸相。書簡によると陸相その人がもみ消し工作のための資金三千円をだしている。陸軍機密費からひねりだしたものであることに、間違いはない。なにしろウォール街の大暴落による世界的恐慌前夜の三千円である。ちなみに総理大臣の月給八百円、日雇労働者の賃金一日一円六十銭ぐらいのとき、もっていかに大金かがわかるであろう。張作霖爆殺の陰謀は関東軍だけではなく、陸軍中央ぐるみの陰謀であったことを、これ以上に証するものはない。

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