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歴史探偵 昭和史をゆく
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第四話 完璧なる人──天皇機関説事件

『歴史探偵 昭和史をゆく』
[著]半藤一利 [発行]PHP研究所


読了目安時間:23分
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1、『文藝春秋七十年史』から



 一九九二年は『文藝春秋』が創業されてから七十年目にあたった。それを記念するため、わたくしは「社史」を書くことになり、一年足らずで約八百枚の長篇の社史(非売品)を書き上げた。総合雑誌としての『文藝春秋』は、昭和史と完全に歩みをともにしたから、勢い雑誌の誌面をとおしながら、昭和史を略記することにもなった。以下に、天皇機関説事件に関連してその一部をそっくり転載してみたい。昭和史の転回点の一断面があると思うからである。


 天皇機関説が問題になったのは、昭和十年二月十八日の貴族院本会議においてである。くわしくは史書にゆずるが、不敬、叛逆の徒と攻撃された美濃部達吉は、自著『逐條憲法精義』『憲法撮要』などを発禁にされ、孤軍奮闘しつつも貴族院議員も辞職に追いこまれていく。この攻撃の火の手の燃えさかっている真っ最中の八月三日、ときの岡田啓介内閣は〈我が国体の本義〉と称する“国体明徴声明”を発表する。この声明には、こう書かれている(茶本繁正の著書による)

恭シク惟ミルニ、我国体ハ天孫降臨ノ際下シ賜ヘル御神勅ニ依リ昭示セラルル所ニシテ、万世一系ノ天皇国ヲ統治シ給ヒ、宝祚ノ隆ハ天地ト与ニ窮ナシ……」


 つまりは、国家統治権が天皇に存せず、天皇はこれを行使するための機関であるとする天皇機関説は、万邦無比なる我が国体の本義をあやまるものである。天皇統治の大権は神代の昔からきまっていることなのである。それが国体明徴ということであった。


 文部省は各学校に国体明徴をよびかけ、陸軍の教育総監真崎甚三郎も、全陸軍に国体明徴を訓令した。これをきっかけに軍部は、みずからを国体明徴の露払いであり太刀持ちと自負して、いよいよあけすけに政治の表面にのりだしてくることになる。


 まさに思想・学問の問題であり、歴史観への問いかけであり、言論の自由の問題であった。しかし、なんということか、瀧川事件のときと大きく違い、美濃部学説を公けの場で弁護し、学問の自由を守ろうとする動きは、学界はもちろん、言論界にもあまりみられなかったのである。ましてや美濃部学説が国禁となるに及んでは、『改造』も『中央公論』も、なすところがなかった。


 ひとり『文藝春秋』だけが、その人間的興味の特性をいかし、大森義太郎「人としての美濃部達吉博士」と、城南隠士「美濃部騒動の表裏」を四月号に載せ、気を吐いているにすぎない。


 とくに城南隠士の解析はまことに鋭かった。騒動の裏には「日本を縦断して流れる二つの潮流の争い」があるとみる。一方に西園寺公望を本尊に、牧野伸顕、斎藤実、高橋是清、鈴木貫太郎、湯浅倉平、一木喜徳郎らの一分の隙もなく固めた穏健グループがあり、敵対するグループに平沼騏一郎を旗頭とする強硬路線の面々があり、これに軍部が結びつこうとしている。

××(軍部)がこの騒動を起したとは言えんが、××を中心とする連中の間から、美濃部糾弾はまず捲起された。議会で先陣を承った菊池(武夫)は××とは切っても切れん同志の一人だ。議会の始まる前から美濃部説を攻撃して居ったのも、みな××とは近い連中じゃ」(昭十・四)


 敵は本能寺で、美濃部学説を糾弾することで、穏健重臣グループの結束を崩そうとしているのである、と美濃部追い落としを分析する。

美濃部党の憲法解釈で、現存する一番の先輩は枢府で憲法の鍵を預る××じゃ。××の著書や、講義のプリントの中には□□□□から見ると、×××××××××思想が流れて居る。美濃部を攻撃し、その学説一切を駆逐するとなると、最後に出て来るものは□□じゃ。そんな危険な学説の最高権威者を×××××××××××××××に放任しておけるかと言う事になる。


 この運動が□□に及び、万一××が何かの形で責任を執らねばならんような破目にでもなると、西園寺、牧野、斎藤、高橋、××と繫がる重臣層には一大破綻が起る。美濃部騒動の××××はここじゃ」(同前)


 ここにある「枢府で憲法の鍵を預る××」とは、ときの枢密院議長一木喜徳郎である。天皇機関説糾弾派の標的が一木にあったこと、すなわち宮中改革の狙いがそこに秘められていた。□□として二カ所の削除されている二字には「宮中」と入れたらいいか。

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