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歴史探偵 昭和史をゆく
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歴史
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あとがき

『歴史探偵 昭和史をゆく』
[著]半藤一利 [発行]PHP研究所


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 大阪大学教授山崎正和氏のおすすめで、『季刊アステイオン』(TBSブリタニカ)に四年余にわたって社会時評を書いた。一九八七年冬季号から一九九一年春季号までの十八回。この間に世界情勢は激動した。アンゴラからのキューバ軍の撤退、カンボジアからのベトナム軍の撤退、アフガニスタンからのソ連軍の撤退、イラン・イラク戦争の停戦にはじまって、鄧小平の引退、ドイツ統一、東欧諸国の独立、湾岸戦争、ソビエト崩壊と、不謹慎ないい方であるが時評にもってこいの、めくるめくような時の流れであった。国内状況も大きく転回した。なによりも昭和の終焉があったから、都合三回も昭和天皇について書き、貴重なページを埋めた。


 本書はその『季刊アステイオン』の時評で書いたことを中心にまとめたものである。ただし国内および世界の動きにふれた“時評”の部分は全部カットした。


 時空の変転に直面して、いまこそ「歴史に学ぶ」べきとき、と自分で勝手にきめ、昭和史のうちから、そのときにふさわしい具体例をかならず時評では提示した。たとえばイラ・イラ戦争の停戦では、ホメイニ師の「防衛的聖戦」の叫びから、日本の対米英戦争での自存自衛の聖戦の問題にふれ、米国のジャパン・バッシングにたいしては、山本五十六が大いに憂えた「国論(衆愚の)」の手紙、あるいは対米英協調から反米英へと変った戦前の日本の外交路線を論じ、ドイツ統一では日独同盟問題を、湾岸戦争では「降伏することの難しさ」を考えたりした。歴史好きとして時評に新味をだしたいからというわけでなく、それしかできなかったのである。

ここで例によって話を変えるが」とか「我が田に水を引く無礼を許してもらって」とか、毎度おなじみの文句をならべて強引に昭和史のほうに話題をもっていった。しまいには「今度は何をもちだしてくるか、それが楽しみになった」という友もいた。つまり本書はその主題であった今日の時評の論述はすべて削って、引用例であった昭和史の部分を残してまとめたもの、ということになる。史上稀ともいえるせっかくの世界の大変動の観察を、全部無にしてしまうのはちょっと惜しい気もしたが、どだいその柄ではない。


 というわけで、本書は、借りた(ひさし)をつくろってならべて母屋を作ったという妙な具合になったが、そのためにやや大幅に手を入れたものもある。それと昭和史全体の流れをわかりやすくしようかと、諸雑誌に発表してあったものをいくつか加えたし、新たに書き下した部分もある。長いこと雑誌記者をやってきたから、こうした編集作業はむしろ楽しみであった。それをPHP研究所第一出版部の大久保龍也君が熱心に手伝ってくれた。


 楽しみといえば、そろそろ老いの坂にかかった人間には史書を読みあさることはまことに楽しいものである。だれの言葉であったか忘れたが、人間は、四十歳までは“未来”をむさぼり食って生き、それ以後は“過去”をかじって生きていくようである。しかも歴史好きというものは、歴史自身が面白いので、別にこれを知っていると、どれだけトクをするという効能を目当てにしているわけではない。研究によって身を立て名をあげるなんて魂胆はちょっぴりもないから、研究家というより、これからは歴史好きのシロウト探偵を名乗ることにした。それでも、自分の船の(ふなばた)に刻みをつけて、そこが沈んだ地点の標識だなんて、妙な意地張りだけはしないように気をつけたいと思っている。


 そういえば、まえがきを夏目漱石の『吾輩は猫である』書中の一句ではじめた。その漱石が明快に主張することでおしまいも飾りたい。『創作家の態度』という講演のなかで、漱石は文学の歴史的研究についての不満を四カ条にして訴えた。それはあながち文学史のみにかぎったことではない。歴史研究にさいして、と置きかえて読んでも、それほどの誤りはない。わたくしのような歴史探偵たるものが銘肝すべき心得のようにも思われる。

㈠現在をすべての標準として、歴史的価値を裁断してしまうこと。

㈡歴史の必然ばかりを強調し、偶然性や想像性を捨て、複雑なことを一筋化してしまうこと。

㈢主義の名に固執し、異なった事象や変化を同一視してしまうこと。

㈣形式的な分類によって、すべてを律してしまうこと。


 漱石が戒めるのは以上であるが、これを一言でいえば、史学は好きであるが、かならずしも歴史が好きとはいえないような者にはなるまいぞ、ということであろうと考えている。


一九九二年春

半藤一利 

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