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生き方下手(KKロングセラーズ)
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ルポ・エッセイ
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第三章 スターダム──『君だけを』から『真夏のあらし』

『生き方下手(KKロングセラーズ)』
[著]西郷輝彦 [発行]PHP研究所


読了目安時間:20分
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あれよ、あれよという間のスターダム



 涙を流して鹿児島を後にしてから二年。神戸や大阪、京都、名古屋を転々としながら明日をも知れぬ毎日を送っていたのは一五、一六歳のときだった。何をやってもうまくいかない、歌っても歌っても認められない、そうした日々の中、「いつかは」「いずれは」の思いだけは忘れていなかった。一七歳の誕生日を迎えた直後、ボクは念願の歌手デビューを果たし、ヒット曲を連発し、あれよあれよという間にスターダムにのし上がった。



 心底、うれしかった。「いつかは」と「もうダメかも」は紙一重だ。たった今「ようし、今にみていろ」と思っていた雄々しい気持が、ものの五分後には「やっぱりあきらめた方が……」に変わってしまうことは何度もあった。デビューするまでの二年間は、強気と弱気の狭間をせわしなく行ったり来たりしていた。


『君だけを』が発売になった直後、ボクはまだジャズ喫茶に出演していた。休憩の合間に、近くのパチンコ店で時間を潰していた。さして気合を入れることなく玉を打ち続けているとき、ひょいと耳に届いたのが……店内に流れ始めた『君だけを』だった。

「あ、これ、ボクの歌だ」と思うまもなく、涙がこぼれた。「ああ、やったんだ、歌手になれたんだ」


 このとき初めて歌手になれた幸せを実感した。



 家を継ぎたくない、鹿児島を出たい、有名になりたい、をすべて包み込んだ一つの結論は、ボク自身の中で夢として膨らんでいた思い──歌手になって音楽を仕事にして生きていきたい──に結実していた。兄の勝晶と一晩中話し込んだ「いつか一緒にバンドを組もうな」の夢は、形こそ違え、ボクの歌手デビューによって実現したように思う。


 栄光は手中にあった。西郷輝彦の歌手生活が華々しくスタートしていく。


ボクをスカウトした救世主、長田幸治ディレクター



 ボクはじっと耐えるように浅草のジャズ喫茶『新世界』で歌っていた。そこに現れたのが当時、コロンビアレコードのディレクターを務めていた長田幸治さんだった。


 客席で歌を聴いたあと、ボクを呼び、突然の一言──「レコードを出してみないか?」当時、コロンビアから枝分れする形で新会社「クラウンレコード」が生まれることが決まっていた。長田さんはそのための準備を進め、まさに新人を発掘していたときだった。ボクはまた例のごとく単刀直入に聞いた。

「長田さん、あなたは一体、どういうことを今までしてこられた方なのですか?」

「飯田久彦の歌とか、守屋浩の『僕は泣いちっち』をこれまでやってきた。浜口庫之助さんの『黄色いサクランボ』も」


 それはすごい、と思った。


 でも、「北島三郎とか、美空さんも今度クラウンから出すし、五月みどりもウチから出すよ」と聞いて、「演歌ばっかりじゃないですか」と若かったボク。

「そういう人たちもいるけれど、私はポップス系だから。私が君を担当するから」

「で、どういう曲をボクは歌うのでしょうか?」

「それは歌謡曲だよ。ちょうど今、舟木一夫っていう人がすごい人気だろ。あの路線で君らしいものを歌ってほしいんだな」

「いや、それはちょっと……やっぱり今みたいにロックを歌っていたいのです」

「あ、大丈夫だよ。心配しなくてもいいよ。一発、当てれば、あとは君の好きなようにやれるようになるから」


 考えてみれば、ずいぶんと失礼な聞き方だったかもしれない。向こうは天下のコロンビアレコードでディレクターだった人。そしてボクはタダの一六歳の少年。どこの馬の骨かも分からないような存在の少年が、遠慮することも臆することもなく、意見を述べていた。



 当時、ジャズ喫茶で歌っていたのはロカビリーを中心に、さまざまなジャンルの音楽だった。

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