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ガンディー 強く生きる言葉
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ルポ・エッセイ
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はじめに なぜいまガンディーなのか?

『ガンディー 強く生きる言葉』
[著]佐藤けんいち [発行]ディスカヴァー・トゥエンティワン


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ガンディーの名前を聞いたことがない人は、まずいないだろう。


 

かつて日本ではガンジーと呼ばれていたガンディーは、子ども向けの「偉人伝」の人であり、「インド独立の父」であり、「非暴力」にもとづく政治運動を指導したが、インド独立の実現後に暗殺され、非業の死を遂げた人であった。そういった教科書的な理解が一般的なものであろう。


 

ビジュアル的には、シンプルで質素な白衣に身を包んだ半裸で色黒、やや猫背気味のやせて小柄な老人。口ひげをはやし、メタルフレームの丸メガネに、短く刈り込まれた坊主頭。はだしにサンダル、長い杖を手にとぼとぼ歩く姿、床に座って糸車を回している姿。モノクロ写真に残された、そんなイメージが定着している。写真を見たら、その人がまず間違いなくガンディーだとわかるはずだ。


 

だが、いったいどれだけの人が、ガンディーについて知っているといえるのだろうか?


 

人間ガンディーの生涯


 

昨年(2019年)10月2日に生誕150年を迎え、非業の死を遂げてからすでに70年以上もたつガンディー。激動の時代状況のなか、時代は逆回転してふたたびガンディーにとって人生のピークであった1930年代に戻りつつある印象さえある。


 

先進国でも経済格差の拡大による貧困層の増大、人工知能(AI)が人間から仕事を奪ってしまう可能性、悪化するばかりの地球環境問題、いっこうに止むことのない内戦と難民問題……。

2020年に入ってからパンデミック化した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、状態がさらに悪化する懸念すらある。世界全体が国境で分断されるだけでなく、国内の分断がさらに進行する危険もある。社会や経済だけでなく、価値観にも大きな変化をもたらすことが考えられている。


 

こんな状況下で、欲望の赴くままに拡大を続けてきた資本主義のあり方に疑問をもつ人びとが増えてきたのは、当然というべきだろう。断食や菜食主義、そして手作りを重視したライフスタイル、瞑想や祈りを重視したスピリチュアリティ、欲望をコントロールするストイックな生き方、倫理性を重視した経済などを実践してきたガンディーにあらためて注目が高まりつつあるのもまた当然だ。 


 

とはいえ、ガンディーが何者だったのかといえば、基本的に政治指導者としての活動が中心にあったことは事実である。


 

1947年に英国からの独立を実現したインド(およびパキスタン)だが、90年にも及んだ独立運動の性格を大きく転換したのがガンディーである。エリート中心でテロも辞さないという抵抗運動を、圧倒的に多数の農村人口を巻き込んだ非暴力の大衆運動に転換することに成功したのである。ガンディーが切り開いた道に、そのフォロワーたちが続き、最終的に第2次世界大戦後に独立が達成されることになった。だから、ガンディーは「インド独立の父」とされているのである。


 

英国のアッテンボロー監督による名画『ガンジー』(1982年製作・公開)を見た人もいるだろう。殉教者イメージと聖人イメージが前面に出すぎているような気がしないでもないが、アカデミー賞を9部門で獲得したこの188分の映画で、南アフリカ時代を含めたガンディーの生涯をたどることが十分に可能だ。


 

ガンディーの生涯については、出生から46歳までの「前半生」と、78歳での死に至るまでの「後半生」にわけて考えると理解しやすい。詳しくは、巻末の「ガンディー年譜」を参照していただきたいが、簡単にいえば前半生は出生名のモハンダス・カラムチャンド・ガンディーの時代であり、後半生はマハトマ(=偉大なる魂)の尊称で呼ばれるようになって以降の、いわゆるマハトマ・ガンディーの時代である。


 

ガンディーは、非暴力による抵抗運動の元祖として、広く位置づけられている。


 

米国の黒人解放運動のキング牧師がガンディーの「非暴力主義」にインスパイアされており、その流れのなかに前大統領のバラク・オバマ氏もいる。チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世もまた、ガンディーの非暴力主義の強い影響を受け、精神的リーダーとして世界中で広く尊敬されている。人種差別のアパルトヘイトを終わらせた活動家で、南アフリカの大統領となってからは黒人と白人の融和を図ったネルソン・マンデラ氏もその一人だ。


 

ガンディーが凶弾に倒れたあと、そのニュースを知ったアインシュタイン博士は、こう語ったという。「後世の人たちは、血の通った生身の肉体をもったこんな人が、実際にこの世に存在したのだとは信じられないかもしれない!」と。


 

そう、まさにアインシュタインが言うように、ガンディーは生身の人間であった。


 

インドの外でポピュラーに


 

ガンディーは、いまではポピュラー・アイコン化している。英語圏、とくに米国では、ガンディーの言葉は、モチベーション向上など自己啓発系のフレーズとしてよく引用されている。ポスターや学習用ノートにも使用されているくらいだ。ただし後述するが、実際にはガンディーの発言ではないものも多い。


 

ガンディーの非暴力と清貧という聖人イメージは、欧米キリスト教社会では、イエス・キリストやアッシジの聖フランチェスコなどになぞらえられることが多いようだ。むしろ欧米を中心に、インドを超えて世界中で受け入れられているといっていいのである。


 

もともとガンディーはインドの出身だが、その思想は、聖書やトルストイ、ラスキンの経済思想、そのほか神智学(テオソフィー)など、近代西欧が生み出したものに多く影響されている。ガンディーは英国留学中の若き日に、ベジタリアンや神智学者たちとの交流をつうじて、自分の根っこにあるインドとヒンドゥー教を再発見しているのである。インド以外でポピュラーな存在になったのも、ある意味では自然なことかもしれない。


 

ガンディーは、「インド独立の父」としてルピー札にも肖像が印刷されているが、ガンディー精神がインドに根付いているとは言い難い。むしろ年々、後退しているといっていいだろう。この状況は、仏教に似ているといっていいかもしれない。仏教はインドに生まれたが、東アジアと東南アジアに拡がって栄えたのち、発祥の地のインドでは衰退してしまった。仏教は、現在では欧米世界にも拡がっている。


 

新しいリーダーシップのスタイルを先取りしていたガンディー


 

政治運動という側面だけで捉えるのではなく、広い意味のリーダーシップという観点からガンディーを捉え直すべきではないか、それが今回ガンディーの言葉のアンソロジーをあらたに編むことになった最大の理由だ。


 

21世紀に入ってから、ますます「社会起業家」(ソーシャル・アントレプルナー)の存在が重みを増すようになってきている。ビジネスをつうじて社会変革を目指す人たちも含めて、ガンディーにあらためて注目する必要があるだろう(本文の第4章を参照)


 

具体的にいえば、「チェンジ・リーダーシップ」と「サーバント・リーダーシップ」の観点からの注目だ。前者は、「変革するリーダー」のあり方、後者は「奉仕するリーダー」のあり方と言い換えていい。もちろん、これは社会変革やビジネスに限らず、すべての分野のリーダーとリーダーシップにあてはまる概念だ。


 

変革リーダーの心構えとは、こういうものだ。人を動かすには、力ずくで引っ張るのではなく、高い倫理観とビジョンに支えられた理念にもとづき、共感を持ちつつ下から「奉仕」することが大事。この心構えがリーダーシップのあり方として大きな流れになりつつある。


 

スティーブ・ジョブズが、「変革(チェンジ)」という観点から、ガンディーを敬愛していたことを指摘するべきだろう。1997年のアップル社のポスターに、20世紀を代表する人物の一人として、アインシュタインなどとならんでガンディーを登場させている。


 

奉仕するリーダーという観点からは、ガンディーが貧困に苦しむ農村に注目し、草の根の大衆動員モデルを生み出したイノベーターであることにも注目したい。


 

途上国ビジネスにかんして、「ボトム・オブ・ザ・ピラミッド」という表現が使用されるようになっているが、まさにピラミッドをひっくり返して、ボトム(底辺)の貧しい大衆に奉仕する姿勢を身をもって示したことにこそ、ガンディーの真骨頂がある。ガンディー自身はエリート層の出身だが、エリートには思いつかないことをやってのけた発想と行動力には、大いに学ぶべきものがあろう。


 

弁護士出身のガンディーは、組織づくりと寄付金による資金調達の名人であった。ガンディーのスポンサーとなったのは、インドの民族資本家たちである。


 

英国による植民地時代に始まったタタ財閥やビルラ財閥、バジャージ財閥といったインドを代表する財閥企業グループはみな、私有財産と商業活動を認めたうえで富を社会に再分配すべきだとしたガンディーの思想的影響を受け、事業経営にあたってはガンディーから直接アドバイスをもらっている。社会貢献を重視する姿勢は、現在までしっかりと引き継がれているのである(第5章を参照)


 

ガンディーが暗殺されたとき、彼は姪2人とともにビルラ邸に滞在していた。


 

『7つの習慣』の著者が高く評価するガンディー


 

現代を代表する自己啓発書のベストセラーに、『7つの習慣』(キングベアー出版、2013)がある。お読みになった人も多いだろう。


 

その著者で米国人のスティーブン・コヴィー博士は、「第1の習慣」として「主体的である」をあげており、次のように述べている。「主体的な人は押しつけがましくはない。主体的な人は、賢く、価値観に従って行動し、現実を直視し、何が必要かを理解する」。例として取り上げているのはガンディーだ。


 

またコヴィー博士は、『原則中心リーダーシップ』(キングベアー出版、2004)の第7章で、ガンディーが説いた「7つの大罪」( 第4章を参照)を大きく取り上げ、「7つの習慣」こそ「7つの大罪」を回避するのに役立つと述べている。参考のために「7つの習慣」を列挙しておくと、「① 主体的である」「② 終わりを思い描くことから始める」「③ 最優先事項を優先する」「④ Win-Winを考える」「⑤ まず理解に徹し、そして理解される」「⑥ シナジーを創り出す」「⑦ 刃を研ぐ」である。


 

コヴィー博士が説くところが、ガンディーの行動と発言に大きく重なって見えてくるのは、「人格主義」という原理原則が共通するからであろう。だが、ガンディーは思想家でも哲学者でもなく、実践家であったことに注意する必要がある。あくまでも行動の人だったのである。


 

それは、「マイ・ライフ・イズ・マイ・メッセージ」(=わが人生そのものがメッセージだ)というガンディー自身の言葉に集約的に表現されているといっていいだろう。「思想と行動、言葉が一致する」ことに、大きな意義を見いだしていた人なのだ。


 

典型的な「内向型」だったガンディー


 

数年前に話題となった米国発のベストセラーに、『内向型人間の時代』(スーザン・ケイン、講談社、2013)という本がある。心理学者ユングが分類した人間類型のうち、外向型と対比される内向型の特性と魅力について、豊富な引用をもとに語った自己啓発書だ。


 

内向型の人とは、著者によれば、「喋るよりも他人の話を聞き、パーティで騒ぐよりも一人で読書をし、自分を誇示するよりも研究にいそしむことを好む人」のことである。


 

ガンディー自身、『自伝』のなかで、少年時代から青年時代にかけてシャイな性格で引っ込み思案だったことを告白している。瞑想や内省を重視していたガンディーが典型的な「内向型」であったことは、本文に収録したガンディーの言葉を読むと実感されることと思う(第9章を参照)


 

非暴力を説いたガンディーだが、実際にその言葉を読むと、想像以上に激しいものがあることに気がつくことだろう。日本でいえば、幕末の志士たちをインスパイアした吉田松陰や西郷隆盛のような、気概と気迫を感じる発言もある。


 

内向型の人は、人を喜ばすために過剰に同調したりしないのである。言葉と考えと行為が調和し一致することを幸せと感じるのであって、しかも自分の信念を語るから、選び抜いた言葉が熱を帯びたものになる。だからこそ、人を動かす言葉となるのだ。


 

とはいえ、「ガンディーのようになりたいし、キング牧師のようにも、ジョン・レノンのようにもなりたい……。でも、ずっと生き続けていたい」という発言もある。歌手のマドンナの発言だ。普通の人はそれでいいのである。私もまたおなじだ。


 

そういえば、キング牧師やガンディーを尊敬していたジョン・レノンもまた、晩年のスティーブ・ジョブズと同様に、ガンディーのような丸メガネがトレードマークになっていた。


 

編訳方針について


 

「インド独立の父」ガンディーが書き残した文章は、インド政府の情報通信省によって編纂され、1960年から34年間かけて、なんと全100巻(うち3巻は索引)の英文全集(Collected Works of Mahatma Gandhi)として出版されている。現在ではネット上に公開されており、閲覧もダウンロードも可能だ。


 

もちろん、膨大なガンディーの書き物からエッセンスを抽出する作業は、途方もない大事業となってしまう。そこで今回は、「主要参考文献」に記したガンディーの主要著作3つと、各種のアンソロジーをもとに、さらに精選して181項目を選び出した。


 

ただし、英語圏を中心に世界中の多くの人びとが引用する名文句には、ガンディーのものとされているが、実際はそうではないものがある。たとえば、ジョブズも好んで引用していた、「君が世界で見たいと思う変化になれ」など、その最たるものだろう。


 

ほかにも、「明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ」とか、「目には目をでは世界が盲目になってしまう」など、いかにもガンディーらしい名文句がある。だが、残念ながら、いずれもガンディーのものではない。本書には、こういったフレーズは収録していないことを、あらかじめお断りしておく。


 

「ビジョナリーではない。実践的な理想主義者だ」と自らが語るように、あくまでも自らを実験台にして生きてきたガンディー。理想主義者だが、現実離れした理想を掲げていたわけではないことは、資本と資本家にかんする発言(第5章を参照)を読めば十分に理解できると思う。 


 

もちろん、自分の好みに合わせて、大いに共感してみたり、それは無理だろうと違和感をもってみたり、ぜひみなさんも心のなかで「人間ガンディー」との対話を試みてほしい。ここに収録したガンディーの言葉は、ほぼすべてが誰かに向けて発せられたものである。どう受け止めるかは、あなた次第だ。


 

偉人だが、けっして聖人ではなかった人間ガンディー。想像していたものとは違うガンディー像を知ることで、みなさんがもっているイメージの一部でも崩すことができれば編著者として幸いだ。ぜひこの文庫本をポケットやバッグのなかに入れて、折に触れてガンディーとの対話を続けてほしいと思う。


 


 

2020年3月11日  佐藤けんいち


 


 

〈追記〉

私事であるが、校正の最中に父が急逝した。誕生日を目前にして永眠した父への贈り物として、本書を捧げることをお許し願いたい。

2020年4月25日 記す

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