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(2021/11/26 追記)

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欧米の独創的な100人に見る 名言の智恵 生きる智恵
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ルポ・エッセイ
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はじめに 自分で名句を見つける楽しみ

『欧米の独創的な100人に見る 名言の智恵 生きる智恵』
[著]谷沢永一 [発行]PHP研究所


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 名句、とか、名言、とか、これを知っていなければ損をするよ、と押しつけるような触れこみで編集した本に、若い時から私は一回も眼を通した覚えがない。余計なお節介はやめてください、と頭から(はん)(ぱつ)したからである。


 短かくて覚えやすい気の利いた言葉は、ちょっと見には意味が深いようであっても、そこだけ切りとって前後の関係から取りはずしたら、単純で薄っぺらく奥行きの浅い放言となってしまう。


 したがっていわゆる名言集に附いている申し訳のような解説は、その一言一句だけであっさり気楽に理解できるよう、意味内容を縮めて簡単に要約して薄味に処理してきた(かたむ)きがある。そして大量に出版されている月並みの名言集は、選択して採録する方針が初めから型通りであるから、たまたまどの本を手にとって見ても、ほぼ同じ有名な詞句ばかり重複している。その傾向を私は子供心に、工夫が足りないと感じて興味を示さなかったのである。


 (わが)(まま)で勝手な申し分でまことに恐縮ながら、私は世間一般に通用している他人の真似はしたくない。名言として相場の決まっている語句を私は敬して遠ざける。そして古今東西に()()している決まり型には()まらない、個性的で気分に食い入る章句を、自分の興味と()(ごた)えと感銘に即して選ぶ。


 人生に喜びを与え、心躍りを誘う友人との出会いが望ましいように、読書に際しての期待もまた、自分の考えを広げて深めて鍛えてくれる感動の瞬間が貴重である。そのとき私の心にときめきを与え新鮮な目覚めに導き、それまでの考えに動きを与えて衝撃を生む一節一章こそが幸福な遭遇ではないか。


 そう考えた生意気で自分本位の私は、昭和六十年に刊行した『百言百話』(中公新書)以来、世間の一般には知られていないけれども、自分を感動させ人生に開眼させ導いてくれた名句ばかり選び、私の問題意識による谷沢自選の名句集を何冊か世に送ってきた。その方向の行きついた終局の自家自選がすなわち本書である。


 加えてそのうえ是非とも強調したいのは、名句集が本来の役割を果たして世に訴えるためには、名句集に付け加えるべき欠くべからざるコメントが、辞書のごとき単なる辞句の語釈であってはならぬという自戒である。


 本来の名句名言は結論でもなく究極でもなく、そこから読者をまだ経験のない先き行きの足取りへ、新鮮な目覚めによって誘い入れる入口であるべきだと思う。そこで私は自分が掲げた名句名言を、茶室における(にじ)(ぐち)のような参入の経路と見て、そこから心を涼やかに考えを進めてゆく呼吸を、ゆるやかなコメントとしてほぼ六百字に練り固めてみた。世間の書物製造業者(ブックメーカー)はみんな辞書から語釈を書き写すのみ、己れの信念と責任において説く論述(コメント)を避ける。私は逆に教師みたいな解説ではなく、読者に呼びかけて応答を引きだし会話を楽しみたい。すなわち気分の()った連中による競合勉強(ゼミナール)のような、見解の対比と交換と()り合わせを、読者と膝を()じえながら試みたいのである。


 今頃になって、活字文化振興法などと、時代錯誤(アナクロニズム)を思い立つ人の気が知れない。ある書物をいちおう手に取って、購入するかどうかを決めるのは個人の判断である。読者が買いたいと思いもせぬ本の出版や流通を税金で助成する必要はない。公共および大学の図書館は、一般に手の届かない高価な文献のみを購入すべきである。手持ちの財布で賄える廉価本の(わず)かな代価が惜しいのなら、書店に立ち寄らず(ぎよう)()でも食いに行ったらよかろう。

平成十七年八月

谷沢永 

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