この本は、かつて『天皇の暗号』というタイトルで出版されました。明治維新は、まったくもって不可解なことばかりです。
一八五三年の黒船襲来後、およそ三百年ほど続いた幕藩体制が揺らぐなかで、公武合体派の薩摩と倒幕派の長州が、なぜか幕府には内密に薩長同盟を結びます。さらに不思議なことに、薩摩はこれをきっかけに将軍家と会津、桑名藩を目の仇にします。
十五代将軍に擬せられた人物は、家の相続については承諾しますが、将軍職についてはどうしたことか辞退すると天皇に上奏します。
またこの辞退を、蟄居中のある下級公家がなぜか大いに評価をします。
すると、天皇は、すぐさまその人物を十五代将軍に勅命しました。これが徳川幕府最後の将軍となります。
さて、その公家は何を企んでいたのか、将軍職はなぜ忌避されようとしていたのでしょうか。このほかにも幕末から明治にかけて、一見しただけではよくわからない事件や出来事が次々と起きます。
つぎに掲げる「プロローグ」は、将軍勅命の直後に起きた大事件です。この事件のあと、薩長は、倒幕に向けて不穏な動きをすることになり、後世にさまざまな影響を及ぼしていきます。
維新の三傑に数えられ、抜山蓋世の豪傑と謳われたある男は、それを未然に防ぐために苦慮することになりますが、いったい何のために苦労し、何をしなければならなかったのでしょうか。さらにその苦悩は、明治政府樹立後も続き、やがて西南戦争が勃発します。西南戦争の原因は、はたして何だったのでしょう。
かつてないほど日本が歴史的に揺さぶられた明治維新という革命が孕む闇は、一枚岩では割り切れない、さまざまな人々の思いが交錯するところからきているように思われます。維新で目覚めさせられた南朝の亡霊は、いまだにさまよい、現代に影を落としているのです。亡霊の正体を解く鍵もまた、明治維新にあります。
では、慶応二年十二月の宮廷内で起きたある大事件から見てみることにしましょう。