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天皇は暗殺されたのか 150年後に明かされる明治維新の真相と南朝の闇
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ルポ・エッセイ
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第八章 玉は死守すべし

『天皇は暗殺されたのか 150年後に明かされる明治維新の真相と南朝の闇』
[著]大野芳 [発行]二見書房


読了目安時間:49分
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ええじゃないか騒動と神官・国学者


 慶応三年夏、奇怪な風習が日本全国に流行した。


 空から(しん)()(お札)が降ってきた。京都や江戸では、伊勢の皇大神宮の神符が用いられ、降った家は、店先や庭先に祭壇をもうけて道ゆくひとに酒肴をふるまう。

《具視が中山忠能、正親町三条実愛、中御門経之、西郷吉之助、大久保一蔵、中岡慎太郎、坂本龍馬などと王政復古の相談するとき、具視本邸の出入りが頻繁になるのを、幕府および会津、桑名二藩が気づかなかったのは、務めて姿を隠して往来したばかりでなく、天の助けがあったからである》(『岩倉公実記』要訳)


 その天の助けこそが、この「ええじゃないか」騒動だった。酒はタダで飲み放題、万事、無礼講で踊り狂うその民衆のさまは――。

〈都下の士女は、老少の別なく()()()て男は女装をし、女は男装をす。群を成し隊を()す。ことごとく()()(うた)ひ、太鼓をうち、以て節奏をなす。その()()は「ヨイジャナイカ。エイジャナイカ。クサイモノニ紙ヲハレ。ヤブレタラ。マタハレ。エイジャナイカ。エイジャナイカ。」といふ。衆みな(きよう)(ほん)(すい)()し、一群去ればまたくる。街頭織るが如し。夜に入れば各その頭上に()をいただき(さい)()(布製の花)を飾る。八月下旬にはじまり十二月九日王政復古発令の時に至りてやむ〉(『岩倉公実記』要訳)


 この騒動の発端には、諸説ある。


 慶応二年二月、愛知県三河の()(くわ)(しや)百年祭を最初とする説。翌三年七月と八月に、やはり三河に降った説などがある。これが東海道から近畿、江戸へと拡がり、四国にまで達するのである。


 この仕掛け人こそ岩倉具視の軍師・玉松操であり、配下の神官および国学者であった。


 玉松が法印まで務めた高僧だったことは前述した。堕落した僧侶の改革を試みたが排斥され、国学を救世の道と考えて転じた。


 その国学とは、なにか。


 江戸初期、真言宗の僧・(けい)(ちゆう)は、梵語の研究から万葉集や古今集などの古典に目を向け、わが国固有の文献学を確立した。そして契沖が水戸の徳川光圀に委嘱され、国学と史学、そして神道に儒教を結合して誕生したのが、南朝を正統とする水戸学である。また光圀が着手した『大日本史』の編纂は、武家に朱子学を推奨した幕府に反する事業であった。尊皇と幕府への忠誠とは、並び立たないからである。


 いっぽう国学は、江戸中期にはいって伏見稲荷神社の()(かん)()(だの)春満(あずままろ)によって復古神道になった。弟子の、やはり祇官の家に生まれた()(もの)()(ぶち)が徳川御三卿の田安宗武に仕えてその師となる。真淵から(もと)(おり)(のり)(なが)、宣長から(ひら)()(あつ)(たね)へ、篤胤から平田(かね)(たね)、大国隆正らへと幕末に受け継がれていく。


 その大国隆正に学んだ玉松操は、この復古神道を王政復古の基本思想として、神官と国学者の大同団結を図ったのである。


 では、なぜ神官・国学者が団結できたか。


 大きな神社には、神官のうえに社僧がいた。広大な社領を社僧が支配し、神官の人事権さえ掌握した。この社僧の堕落と跳梁には、目を蔽うものがあった。これがやがて神仏分離令へとつながっていくのだが、ここでは触れない。とにかく、学門に勤しむ神官・国学者が格下に置かれ、地位に胡座(あぐら)をかく社僧が上に立って権力を揮ったのだ。


 慶応三年の当時、大国隆正は、郷里津和野の藩校・養老館で教えながら、藩主亀井(これ)()の指南役になっていた。その弟子が福羽美静である。福羽は、京都学習院に出仕する攘夷過激派のひとりであったが、「七卿落ち」では三条らと長州に落ち、慶応三年のころには津和野に舞い戻って大国のもとにいた。やがて明治新政府のもとで皇統図の決定版『纂輯御系図』を編集することになる福羽は、三十六歳であった。大国が七十五歳、年齢的にふたりの中間になるのが、玉松操である。


 もうひとり、有名な国学者がいる。伊予の(おお)()藩士・矢野(はる)(みち)、四十四歳。これも玉松操の人脈で、具視とも昵懇のなかである。これに薩摩の諏訪神社祇官家に生まれた井上石見が、国学・古神道による王政復古と、新しい国家の建設を目論んでいた。これに加えて、山岳信仰の行者や山伏集団がいたのである。


 ええじゃないかの喧噪に紛れて、具視たち倒幕派の密議が着々と進んでいた。

三条実美と具視の握手


 慶応三年九月、中岡慎太郎は、太宰府天満宮へ急行した。


 太宰府延寿王院には、土方楠左衛門(のちの枢密顧問官・土方久元)、尾崎(さぶ)(ろう)(三条家の家士。のち宮中顧問官)らに警護された三条実美ら「五卿」が蟄居していた。


 三条実美に面会した中岡が王政復古を注入し、具視との握手を勧めたのに対して、

〈岩倉は、(かん)(ぶつ)であるから、麿(まろ)は、()のやうな者と、一つになつて、国事に当る事は、()(めん)(こうむ)る〉(伊藤痴遊著『木戸孝允』)


 三条は、にべもなく断った。


 そばにいた東久世(みち)(とみ)が弁護した。

《「岩倉は、一族だから正面切ってはいえないのだが、数々の噂は、皇国を思っての(えん)(ざい)なのだ。いまや在京の公卿で、岩倉の右にでるものはいませんぞ」》(同要訳)


 この一言で、三条は不承不承に、「反省すれば謀議してもよい」と頷いたのである。


 三条実美の合意を取り付けた中岡は、三条の代理人・尾崎三良を伴って長崎へ向かった。こんどは、坂本龍馬と会うためである。


 具視の(ゆう)(めん)を勝ち取るには、薩摩の力が必要だった。中岡と薩摩の西郷隆盛、小松帯刀とのパイプは太い。従って、具視を()(かつ)のごとく嫌う長州の木戸準一郎(孝允。桂小五郎改め)を、龍馬が説得できれば長州の京都復帰も叶い、具視の宥免も実現できる。龍馬の陰にあって目立たないが、中岡慎太郎の周旋能力は、重要な場面で発揮されている。


 長崎で龍馬と会った中岡は、すぐさま龍馬を伴って長州に赴いた。


 幕府は、まだ長州を赦してはいなかった。ならば、倒幕の薩土盟約に倣って長州も加えてみたらどうか、というのが中岡の肚である。


 中岡が三条と岩倉が握手したと報告すると、木戸は、「幸い西郷と大久保が近く長州へくる」という。薩長同盟は、軍事同盟ではあったが、倒幕を約したわけではなかった。ここで長州を倒幕に導けば、願ったり叶ったりである。

「ならば、ふたりにぜひとも藩主と面談の機会をつくってもらいたい」


 と、中岡は木戸にいい、大久保、西郷らと一緒に上洛を勧めるのである。


 中岡と龍馬は、尾崎三良とともに京都へ向かった。

絶対に玉を奪われるな


 そのころ京都では、長州の処分と兵庫開港の案件でもめていた。


 慶喜は、両件を同時に解決せよという。松平慶永、山内豊信、島津久光、伊達宗城らは、まずは長州問題ではないかと対立。やがて四藩主は、それぞれの理由をもうけて帰藩してしまった。具視は、久光の行動は幕府への発言力の強化を狙ったものだと睨んだ。


 いよいよ「倒幕」の時期がきた。具視は、中御門経之に託して中山忠能と正親町三条実愛のもとへ入説に走らせ、ふたりの合意を得た。そこで具視は、西郷、大久保、小松帯刀と謀議し、小松に久光の説得にあたらせた。久光も、総力をあげて遂行すると誓った。


 大久保を長州に派遣し、ついに毛利父子と交渉の段階に入った。


 慶応三年九月十五日、島津久光の命をうけた大久保利通は、同藩・大山格之助、長州の伊藤俊輔、品川弥二郎とともに薩摩の汽船(ほう)(ずい)(まる)に乗って大坂を出港した。そして十八日、藩主・毛利敬親父子と面会が叶った大久保は、こう語るのである。

《「幕府は、私意をもって公儀を拒絶しております。ゆえにわが藩は、兵力をもってこれに臨まなければ、皇国の憂慮を取り除くことはできないと考え、すでに倒幕を決意しております。土佐藩では、後藤象二郎が容堂侯の意をうけて王政復古を唱え、安芸藩の辻(まさ)(とも)(家老)もまた同意しております。尊藩は、すでに皇国のために大難に対処され、天下にさきがけて戦闘しておられ、重ねて煩わすこと情において忍びませんが、最後を全うするために、尊藩の援助を乞う次第であります」》(『岩倉公実記』要訳)


 大久保による、長州藩兵の上洛要請である。

「それは、岩倉中将の建言が実行されない不満から発しているのではないか」と、藩主。

「いいえ、幕府の失政は、衆目するところでごさいます。薩、土、芸、そして尊藩の四藩が建言することを幕府が行われなければ、その私意が顕らかになります」と、大久保。

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