西南戦争が終わった明治十年秋、天皇は、皇后や女官たちに「西郷隆盛」の題をだし、和歌を詠ませた。そして「西郷の罪過を誹らないで詠ぜよ」と、飛鳥井は『明治大帝』に、渡辺幾治郎著『聖徳・重臣』を引用している。そこには、〈只今回の暴挙のみを論ずるときは、維新の大功を蔽ふことになるから注意せよ、と仰せられた〉という。
飛鳥井は、〈天皇は終生、西郷に同情的以上の言動をくりかえした〉と書く。
天皇の隆盛を惜しむ行動は、その後も折に触れて現れた。
北畠親房の『神皇正統記』は、冒頭にいう。
「日本は、神の国である。天照大神が基をひらいて代々皇孫を伝えられた」