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それはデートでもトキメキでもセックスでもない 「ないこと」にされてきた「顔見知りによる強姦」の実態
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ルポ・エッセイ
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2019年版はしがき

『それはデートでもトキメキでもセックスでもない 「ないこと」にされてきた「顔見知りによる強姦」の実態』
[著]ロビン・ワーショウ [訳]山本真麻 [発行]イースト・プレス


読了目安時間:22分
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サラミーシャ・ティレット博士


「どうしてそれをレイプだと思うの?」最初の面談でセラピストが私にそう尋ねた。私は自分の体験をレイプと呼んだことはなく、その質問は私に飛びかかってきて恥ずかしさと不信感とともに頭の中に反響した。あれから何年も経つが、質問に答えられなかったこと、もしくはそのセラピストのもとにはもう通わないという決断ができなかったこと以上の後悔はない。


 1993年の夏、通っていたペニンシュラ大学でアフリカ系アメリカ人の女性セラピストを見つけ出すのは至難の業だった。同じ大学のボーイフレンドが、当時の私には助けが必要だと半狂乱になって探してくれた。彼は早い段階で私の異常に気付いていたのだ。彼と性行為に及ぼうとしたとき、触れられると私の全身は硬直し、心はさまよい、時間と場所の感覚が崩れ去って、どういうわけか1992年10月に引き戻された。レイプ加害者は大学の先輩で、「やめて!」と繰り返し叫ぶ私の声をボブ・マーリーの曲でかき消しながら、私に挿入した。身体の下から抜け出そうと私が身をよじると、ただ自分の力を思い知らせようとするかのように私の脚を広げてのしかかり、さらには後ろからも、私を叩きながらいっそう強く突いた。数時間後に自分の寮に駆け戻った私は、何も起こらなかったかのように振る舞った。レイプなどなかったかのように。レイプ被害者が皆シャワーを浴びるのをドラマで観ていた影響から、シャワーを浴びることすら避けた。


 同じ年に、ヘビー級ボクサーのマイク・タイソンに関する報道記事をすべて読んだが、それでも自分の体験をレイプとは思っていなかった。タイソンは、ミス・ブラック・アメリカ美人コンテストの参加者であるデジレ・ワシントンをレイプした罪で収監された。有罪判決に終わったが、そこに至るまでに被害者女性の評判はひどく傷つけられた。当時は私ですらワシントンの告発内容を疑い、インディアナポリスのホテルの部屋に行っておきながらタイソンとの性行為を後悔した彼女に非があると思った。私の認識では、レイプは見知らぬ人に襲われることを指し、デートした有名人や、授業で隣の席に座った人によるものではなかった。黒人男性が白人女性によりレイプの濡れ衣を着せられてきた流れで、マイク・タイソンも人種主義社会の新たな被害者に選ばれただけだと世間は見ていた。加害者も被害者も傷つけられてきた人種に変わりないのに、デジレ・ワシントンは人種を裏切るふしだらな女としてあっさりと世間に見捨てられた。


 ともあれ私のトラウマは、無意識の部分に巣くっていた。あの夜の記憶が極端な形で顔を出すのだ。激しくなる動悸、雪崩のように突如襲いかかる恐怖、そして食堂やバン・ペルト図書館の書庫であの加害者が偶然私に近づいたとき、もしくはボーイフレンドの指が優しく私の背中をなでたり顔に触れたりしたときの、今すぐこの場から逃げ出さなければという切迫感。どれも性的暴行被害による症状だと今ならわかるが、当時はセラピストには話せなかった。


 1995年5月に二度目のレイプ被害に遭った。外国でほぼ初対面の相手から受けた被害は、最初のレイプを超える非道さだった。その後大学の一学期分を使って、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えるレイプ被害者のための実験的プログラムに参加し、最初のレイプから4年が経ってやっと、出来事を然るべき機関に届け出ようと思った。ペンシルベニア州が定める5年間の出訴期間に何とかおさまっていた。検察官の前に座り、このかなり年上の白人検察官は私の話を疑うのではないかとおびえた。証拠がないため取り調べはほぼ無理であることも、ましてや起訴の望みなどないことも自分で予想できていた。ところが驚いたことに、検察官は私を信じると言った。私の話が作り話にしてはあまりにも穴が多く、一貫性に欠けていたからと。それでも、事件当時の1992年にはペンシルベニア州法にはレイプの「No means no(拒否の意思が示されたら拒否とみなす)」にあたる条項が存在せず、また法律が定義するレイプには身体的な暴力を伴う必要があったため、この件を起訴することはできないとのことだった。


 自分の事件はそこで終わったものの、レイプ事件の起訴を後押しする方向に世の流れが変わりつつあると強く感じた。当時上院議員だったジョー・バイデンが委員長を務めるワシントンDC上院司法委員会が行った審問が、1994年に可決されて2000年と2005年に改正されたVAWA(女性に対する暴力防止法)への布石となった。審問でデートレイプに関する証言を行った一人が、アメリカ国立精神衛生研究所が出資し本書の基盤となった『Ms.』誌Campus Project on Sexual Assault(性的暴行に関するキャンパスプロジェクト)の主要調査員だったメアリー・コス博士だ。コスが発表した主な調査結果によると、女性の4人に1人がレイプ被害またはレイプ未遂に遭っており、そのうち84%は加害者と顔見知り、さらにレイプの57%はデート中に起きていた。結果的にVAWAは、被害者の保護命令の承認と施行、性暴力に特化した法の施行と検察局設置への援助、女性に対する暴力にコミュニティベースで対応できるよう連邦の人員派遣を求める、連邦初の一括法案となった。


 法が整備され啓発が進められても、変化に抵抗する力はつきものだ。1994年発行の本書第2版のはしがきでロビン・ワーショウが指摘しているが、たとえばマイク・タイソンのレイプ裁判でタイソンの弁護士でありハーバード大学法学部教授のアラン・M・ダーショウィッツは、合衆国憲法修正第6条に反するとして強姦被害者保護法の合憲性を問題にした。この戦略をとるのは、ダーショウィッツに限らなかった。


 1990年代後半にかけて、コスの調査結果に対する反発は異様な加熱ぶりを見せた。これについては、コス自身が本書の2019年版エピローグで語っている。全盛期を迎えたメディアはフェミニストと批評家とを討論させた。『プレイボーイ』誌から『The Public Interest』誌にわたる多様な出版物で、コスが発表した調査方法、定義、結論があらゆる方向から攻撃を受けた。たいていの攻撃は、カリフォルニア大学のニール・ギルバート教授が発表した、デートレイプを「妄想の流行病」と考察する研究結果を基にしていた。


 私は1998年にやっと『それはデートでもトキメキでもセックスでもない』を読んだが、変わらず差し迫った問題だと強く感じた。当時私たちはコスの調査結果が示す窮状を目の当たりにしており、ときにはその調査結果が直接役に立った。VAWAはキャンパス内での性的暴行、DV、デートDV、ストーカー行為の撲滅のために新たな資金を大学管理部門に提供したのみならず、大学在籍中の活動家に研究データを提供して改革を求める運動を後押しした。1999年、私はタフツ大学女性センターのVAWA技術指導助成金を資金に、妹シェヘラザード・ティレットとともにマルチメディア・パフォーマンス作品「Story of a Rape Survivor(SOARS、レイプ・サバイバーの物語)」を制作した。当時、大学キャンパス内のパブリックアートや、性的暴行阻止を主張するキャンペーンは今よりもずっと少なかった。1970年代に始まり今も大学生活動家やレイプ・サバイバーが広く支持している「Take Back the Night(夜を取り戻せ)」という学生デモ行進も、悲しいことに1990年代にはキャンパスから姿を消していた。それでも私たちは1990年代に始まったクローズライン・プロジェクトという、性的暴行の被害者が匿名で思いを記したTシャツをキャンパス内に飾る運動に参加した。


 加えて、1996年ニューヨーク市で作者イヴ・エンスラーのワン・ウーマン・ショーとして初演された戯曲『ヴァギナ・モノローグ』を学生が毎年上演するようになり、性的暴行をはじめとした女性の性の話題が幅広く言及されはじめた。この上演がもたらした直接的な効果は、学生とキャンパス女性センターとの協力関係ができたことだ。女性センターはしばしば公演のスポンサーとなり、大学のレイプ阻止プログラムや性的暴行に関する教育プログラムに会場提供を行うようにもなった。現在、このような学生の活動はキャンパスの域を超え、収益を地域のレイプ緊急相談センターに寄付している。


 同時に、性暴力撲滅運動に加わる男子学生の数も増えていた。2000年代前半には「Walk a Mile in Her Shoes(女性の靴で1マイル行進)」というデモ行進や、男子学生限定の主張団体One in Four(4人に1人)、またMen Can Stop Rape(男性がレイプを阻止しよう)という団体のCampus Men of Strength Club(頼れる男子学生の会)が全国のキャンパスに広まった。


 女性センターがVAWAから受けた息の長い資金援助のおかげで、シェヘラザードと私は黒人女性の芸術家と活動家をキャストに迎えた「SOARS」をハーバード大学、ケンタッキー大学、ワシントン大学、そして歴史的に黒人の多いディラード大学とトゥーガルー大学にて上演することができた。初期の観客は、白人、中流階級、女性が主だったが、2000年代半ばには男子学生が大幅に増え、また学生観客の大半が有色人種の女性となった。言い換えれば、「SOARS」を観に来る学生たちは、私と妹が表現し実践していたブラック・フェミニズム、つまりインターセクショナリティ(複合差別撤廃)に関心を寄せていた。


 1989年に法学部教授のキンバリー・クレンショーが初めて使用したインターセクショナリティという用語は、さまざまな形態の差別がいかに影響し合い、重なり合っているかを示している。人種、性別、国籍や宗教を理由に抑圧される人々に対して中流階級の白人女性を特別扱いさせたがる傾向のある主流フェミニズムを批評する表現として広まった。シェヘラザードと私にとってインターセクショナリティは、フェミニズムの歴史を包含する概念であり、人種主義と性差別が作用しあって有色人種の女子学生が特に性暴力の対象にされやすくなる傾向を説明するものだ。私たちの活動は、女性活動家のアイシャ・シャヒッダー・シモンズにも取り上げられた。アイシャはアフリカ系アメリカ人コミュニティでの同人種間レイプを題材にした革新的な映画『NO! A Rape Documentary(NO! レイプ・ドキュメンタリー)』をひっさげて2006年から各大学を訪問している。ほかにも、レイプがアフリカ系アメリカ人の少女や女性の生活に与える影響を勇敢に描き出した作家たち、マヤ・アンジェロウ、トニ・モリスン、アリス・ウォーカーの作品や、1970年代のブラック・フェミニスト団体Combahee River Collective(コンバヒー・リバー・コレクティブ)による活動など、何十年にもわたる黒人女性の芸術と行動主義の上に私たちの活動は築かれている。さらに私たちはレイプ・サバイバーから連想されるイメージを変え、主要な反レイプ運動の主導者に有色人種女性が選ばれない慣習に異議を唱えようとした。ロビン・ワーショウが本書の1994年版はしがきで的確に指摘したように、顔見知りによるレイプはもとは大学キャンパス特有の中流階級の話だと思われていた。性暴力被害のよりインターセクショナルな捉え方や包括的なフェミニズムを目指して生まれた、ソーシャルメディアを基盤とする新たな運動が根付くには、まだ長い時間を要するのだろう。


 2011年には、新たな世代の学生活動家が訴訟と集団の力をいっそう活用して性的暴行と闘うようになった。4月に学生と卒業生から成る組織がOCR(教育省公民権局)に対し、イェール大学を相手どる30ページに及ぶ申立書を提出した。申し立て内容は、性差別的な環境の排除を行わなかったことと、性差別を禁止する教育改正法第9編(通称タイトルIX)を侵害したことだった。2007年にイェール大学医学大学院生150人が署名した請願書のもととなった事例が、差別的な慣習の一因となったとして挙げられていた。教授と学生の間に身体的な接触、脅し、暴言、レイプなどのセクシュアルハラスメントがあったことを告発したが、大学側が十分に対応しなかった件だ。また、「新入生スカウトレポート」という女子新入生53名の名前、出身地、所属寮、さらには「ビール何杯でセックスできそうか」ランキングを記したメールが回されていたこと、フラタニティ(訳注:男子学生限定の社交クラブ)の悪質な入会試験として男子新入生を集め、女子学生に軽蔑的な発言や性的に露骨な発言をするよう強制したことにも言及した。


 OCRは受領した申し立てに対して取り調べを実施すると回答し、これがより多くのキャンパスの多くの学生が続いて申し立てを起こす、そしてより多くの性的暴行被害者が表に出るきっかけとなった。続けてOCRは「同僚への書簡」と題したレターを各大学宛てに出し、タイトルIXの規定が長年にわたり性差別を禁止していることを強調した。多くの大学が義務を無視していることを認識させ、規定がオバマ政権下で徹底されることを警告する内容だった。大学側にタイトルIXの指針を提示し、性差別と性暴力の調査と阻止を担う統括者の設置、調査プロセスを明文化した方針、被害を報告した学生へのカウンセリングと寮や時間割の変更を要求した。結果、キャンパス内でのセクシュアルハラスメントや性暴力の被害者は、大学側による指針侵犯があった場合にOCRに申立書を提出できるようになった。


 2013年3月には『ニューヨーク・タイムズ』誌が「性的暴行と戦うべく大学組織が団結」と題した記事を発表した。オクシデンタル大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、アマースト大学、イェール大学の学生と教職員が、性的暴行に対するキャンパス側の対応への不満や失望を表明する際はタイトルIXをどう活用できるかをオンラインで協議した過程を、詳しく記録したものだった。記事で取り上げられたチャペルヒル校の学生代表アンドレア・ピノとアニー・クラークは「被害者支援団体は公式な全米組織の設立を挙げていましたが、ここまでこられたのはどちらかというと、数年前にはなかった最新のメディアを利用して参加者と繋がり、情報収集し、注目を集められたからです」と話した。また、コロンビア大学の学生エマ・スルコウィッツの「マットレス・パフォーマンス」(「キャリー・ザット・ウェイト」とも)という、性的暴行を受けた現場であるマットレスをキャンパス内で引きずりまわし、レイプ犯を罪に問うことを大学側に求める運動は、ツイッターや動画拡散文化のない時代には考えられない手法である。


 同様に『タイム』誌は2014年5月号のカバーストーリー「アメリカのキャンパスにおける性的暴行の危険性」で、モンタナ大学で起きた一連の性的暴行事件を取り上げた。オバマ政権下でキャンパス内の性的暴行を国家の課題として取り上げた当時の副大統領ジョー・バイデンにスポットライトを当て、全国のレイプ被害者支援団体と学生活動家にとってはなじみ深いデータに基づいた記事が書かれた。「息子さん方の20%が拳銃を突きつけられると知っていたら、ひとりで大学に行かせるのをためらうでしょう」バイデンはいぶかしげな面持ちで語ったそうだ。「しかしどういうわけか、皆さんは娘さんを大学に行かせる。5人のうち1人がレイプや暴力を受ける場所に。なんとも非道な話です」。2014年の終わりにOCRが取り調べ中の大学名を公表したが、なんと55校が名を連ねていた。


 大学に対する抗議の成功と、全国の卒業生と学生によるタイトルIXを掲げた反性差別の訴訟に触発され、バラク・オバマ大統領は初の「学生を性的暴行から守る大統領府タスクフォース」を立ち上げた。同時期に、上院議員クレア・マカースキルとバーバラ・ミクルスキ率いる立法府議員の超党派グループがCampus Accountability and Safety Act(大学の説明責任と安全法)を提議し、バーバラ・ボクサー上院議員とスーザン・デイヴィス下院議員がSurvivor Outreach and Support Campus Act(キャンパスにおけるサバイバー救済および支援法)を発案した。いずれの議案も、会期の終わりに上下両院で投票に行き着くことなく立ち消えとなった。


 それでも、新たな記事の発行や議案の提出を経るごとに、私たちは目に見えて前進している。カリフォルニア州議会が、助成金を配布している大学すべてに「Yes means yes(同意の意思を明確に示されたときのみ同意とみなす)」を求めるという先駆的な法案を可決したのをきっかけに、1997年にはなかったがために私の検察官が起訴を諦めた「No means no(拒否の意思が示されたら拒否とみなす)」ですら全国で疑問視されはじめた。しかしキャンパス内レイプに関する法改正をともなうという事実が、性的暴行が30年前と変わらず多発し各地にはびこる問題であることをはっきりと知らしめている。『Ms.』誌が『それはデートでもトキメキでもセックスでもない』を出版し、レイプに対する古い認識をひっくり返した30年前と変わらない。当時も今も、反レイプの運動は激しい反発も受けている。


 反発はテレビやインターネットのみを介して寄せられるわけではない。タイトルIXを侵害したとして連邦政府からの補助金を差し止められた大学はかつてないにもかかわらず、キャンパス内レイプ排除運動の批判者は補助金の用途に異議を唱え、政治的動機のもとに大学改革を唱えているに過ぎないと豪語する。この強烈な対抗運動は大学管理部門や活動家、オバマ大統領さえも標的にして、改革運動を「適正手続き(デュー・プロセス)に反する」とみなし、被告人の権利を侵害して同意に基づく性交渉を犯罪扱いするレイプ犯への「行き過ぎた」懲罰行為だと非難している。


 キャンパス内レイプ撲滅を目指す連邦法に対しても、政治家、教授、ジャーナリストからの激しい批判が続いてきた。政府当局の行き過ぎた救済策であり、法の適正手続きを侵害する法だとみなされているのだ。たとえば2014年10月にハーバード・ロー・スクールの学生28人が『ボストン・グローブ』紙に寄せた論説は、性別、性的指向、性自認に基づくセクシュアルハラスメントと性暴力を阻止する目的でハーバード大学全体に施行された新政策を批評するものだった。「私たちは次のような懸念を抱えています」と記述は始まる。「ハーバードは申し立てを受けた性的非行に判決を下す手続きを採用しましたが、これは公平さと法の適正手続きという最も基本的な要素を欠いており、申し立てた側に圧倒的に有利な、またタイトルIXや規則で要求される形からかけ離れたものです」。また、同じ年に『New Republic』誌の記者ジュディス・シュレビッツが「告発された大学レイプ犯にも人権はある」と題したエッセイ記事を発表し、キャンパス内レイプの改革運動を「うその司法制度が大学キャンパスの規範となりつつある」と表現した。さらに、キャンパス内レイプの被告となった息子を持つ親がFACE(Families Advocating for Campus Equality)とSave Our Sons(息子を守ろう)という虚偽告訴から息子を守るための団体を立ち上げた。


 Save Our Sonsのホームページには、K・C・ジョンソンとテスチュアート・テイラー・Jr.の著書『Until Proven Innocent: Political Correctness and the Shameful Injustices of the Duke Lacrosse Rape Case(無実が証明されるまで)』の続編と言える『The Campus Rape Frenzy: The Attack on Due Process at America's Universities(キャンパス内レイプ狂乱)』へのリンクが貼られている。著者2人は、近年のキャンパス内レイプを巡る熱狂のようなものが、被告学生に推定有罪を与えるよう大学側に強いていると主張した。その結果として「無罪推定、無罪を証明する証拠、告発人を反対尋問する権利、適正手続きなどのアメリカの基本的な正義を軽視する動きが広がっている」と言う。「被害を受けたと主張する誰もが信頼に値し、被告人は必ず有罪となるべき」という神話のせいで、キャンパス内の司法手続きが、性的暴行に遭った女子学生を保護するものというよりも法廷や「適正手続きを排除する聖戦」となってしまっていると批判した。


 ドナルド・トランプ大統領により教育長官に任命されたベッツィー・デボスは、この反対運動に強く賛同している。2017年1月に行われた議会による審問で、ロバート・ケイシー上院議員はデボスにこう尋ねた。性的暴行を犯した学生に対し、懲罰や除籍をも含む評決を下す際に、「証拠の優越」(訳注:その事実がどちらかというとある)の判断基準(刑事事件で使われる「合理的な疑いの余地なし」ではなく)を義務付けるつもりか。2017年7月、エマ・スルコウィッツにレイプ罪で告発されたコロンビア大学卒業生のポール・ナンガッサーは、訴訟を示談に持ち込んだ。それだけでなく、大学側がタイトルIXを侵害する形で事件を取り扱ったと主張すれば、性的暴行で告発された男子学生がうまく大学を訴えることができるという流れを生んだ。その年の秋、デボス教育長官は、大学側は「証拠の優越」基準に従う必要はないと発表した。これを受けて被害者支援団体End Rape on Campusは、性的暴行サバイバーや性差別経験者をタイトルIXのもとに擁護すべきだと訴え、ツイッターでハッシュタグ#DearBetsyを伴うツイートを呼びかけた。


 その後、キャンパス内レイプの改革運動が行き詰まると、別の運動が一気に広まった。今度の運動は、近年の反対勢力を鎮圧する力を備えていた。2017年10月、映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインに対する80件超のセクシュアルハラスメントとレイプ被害の申し立てのうち、最初の1件が公表された。これに応えるように、セクシュアルハラスメントや性的暴行の被害を受けたことのある何万人もの男女が#MeTooのハッシュタグを用いて自らの体験を公表しはじめた。暴行加害者は被害者の身体やキャリアを支配しようとしたのみならず、被害者が真実を公表する権利をも奪っていたとして、ハリウッドスターからホテル従業員にわたる大勢がこの運動に参加した。ワインスタイン以外にも無数の著名人が性的暴行やセクハラの告発を受けた結果、その多くが権力を持つ立場からの辞任を余儀なくされた。ニュース・アンカーのマット・ラウアー、俳優のビル・コスビー、ケヴィン・スペイシー、ダスティン・ホフマン、ジェレミー・ピヴェン、コメディアンのルイ・C・K、上院議員のアル・フランケン、さらにはドナルド・トランプ大統領もその一人だ。


 キャンパス内レイプ撲滅運動の直系子孫というよりは姉妹と見られている#MeToo運動の最大の強みは、活動参加者が常に軌道修正していく点だ。もとは10年以上前にアフリカ系アメリカ人女性のタラナ・バークが「Me Too」のスローガンを生み出し、運動を率いていた。#MeToo運動から派生して生まれたのが、解決策に基づいた行動重視の組織Time's Upであり、300人以上のハリウッドの女性スターが職場での安全と平等に焦点を置いた活動を行っている。中流階級の白人女性被害者のみを重視しがちだったこれまでの性的暴行・セクハラ防止運動とは異なり、#MeTooは広範で複合的、複数世代にまたがって団結するモデルを示している。ハリウッド女優や映画制作者は、農業従事者と従事経験者の女性団体、全国女性農業労働者連盟からの連名の手紙に応じる形で、Time's Up司法支援基金を創設した。


 統率力、法律、そしてもちろん活動メンバー数など、あらゆる面で#MeTooの連携体制構築を維持していけるかが今後の課題だ。1周年を迎えた頃、#MeTooは大きな挫折を経験した。2018年10月に上院でブレット・カバノーの最高裁判事就任が5048の賛成多数により認められた。クリスティン・フォード博士が高校時代にカバノーから性的暴行を加えられたと上院司法委員会で宣誓証言し、デビー・ラミレスが大学時代にセクシュアルハラスメントを受けたと公表した後の投票だった。同時期に、デボス教育長官は教育機関に対し性的暴行被害者の支援を強化するにとどまらず、暴行、セクハラ、レイプを告発された側の生徒の人権を守り、高等教育機関の責任を軽くする提案の検討を行った。この提案はセクシュアルハラスメントの定義を狭め、学校側が告発に不適切な対応を示したと正式に抗議できる法的基準を引き上げた。制度化を推し進める抵抗勢力に反発していっそう多くの性暴力サバイバーが体験を公表するようになり、自身のトラウマ体験を選挙や社会改革の活性化の糧にしている。私たちはこれまでのキャンパス内レイプ撲滅運動の成功点と制限を踏まえ、最も弱い立場にある有色人種、トランスジェンダー、ジェンダー・ノンコンフォーミング(訳注:既存のジェンダー分類に当てはまらない)の若い女性や法の保護を受けられないコミュニティを今後も尊重しつづけることで、#MeTooに倣って世界を変えなければならない。その日まで、本書が私たちの指針となりつづけ、古くからある闘争や新たな闘争の中を先導し、サバイバーの体験談を世界中に発信してくれるだろう。

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