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フランスの天才学者が教える 脳の秘密
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生き方・教養
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第1部 脳を解き放て

『フランスの天才学者が教える 脳の秘密』
[著]イドリス・アベルカン [翻訳]広野和美 [発行]TAC出版


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「汝の人間性が命じるものに従え、他者の賛美を求めるな。自ら法をつくり、それに従う者が

真に気高く生き、誇らしく死ぬ。他の人生は生ける屍、亡霊だけが住む世界だ」


リチャード・フランシス・バートン『ヤズドのハジ・アブドゥの抒情詩』


第1章 神経人間工学(ニューロエルゴノミクス)にようこそ





 私たちは脳をうまく使いこなしていない。学校でも職場でも政治の世界でも、脳の“エルゴノミックな使い方”、つまり、脳にやさしくふさわしい使い方をしていない。そのため心が柔軟でなくなったり、何をやっても効率が上がらなかったりする。ひとりひとりの脳が枠に閉じ込められているせいで、社会は硬直化し、人間同士のコミュニケーションも理想からはほど遠い。私たちの脳を束縛しているものはいったい何なのだろう? どうしたら自由になれるのだろう?


 神経人間工学(ニューロエルゴノミクス)とは、人間の脳を上手に使うノウハウのことだ。たとえば背もたれがない椅子より背もたれがあるほうが、体重が分散されて体にやさしい。同じように、脳の使い方を変えれば知識や情報や経験をもっと効率よく活用できるかもしれない。そうすれば、きっと素晴らしい成果が得られるはずだ。


 かつて“てこ”や滑車や蒸気機関などが発明された時、人間の世界は一変した。文字や印刷技術、インターネットが登場した時も同様だった。


 身体的な活動をする際、“てこ”を利用すれば世界が変わる。ならば、知的な活動の際にも“てこ”を利用できれば、世界はもっと大きく変わるだろう。脳はこれまでより柔軟となり、ものの見方、世界や自分、他人に対する考え方、さらには、行動を起こす動機まで変わるに違いない。脳を上手に使うノウハウを手に入れられれば、それぞれの脳が変わり、世界を変え、人類の運命を変えることだってできるはずだ。

“人間計算機”ことドイツのリュディガー・ガムは、暗算で素数同士の割り算を小数点第60位まですることができる。インドのシャクンタラ・デビは、やはり暗算で、1977年に201桁の23乗根を50秒で計算し、1980年には13桁のふたつの数字の掛け算を28秒で行った。


 彼らの脳が普通の人の脳よりもニューロンの数が多いわけではない。ましてや、脳の特定の領域が発達しているわけでも、脳が他の人より大きいわけでもない。筋肉は骨の外側にあるため、トレーニングすれば太くできる。けれども脳は頭蓋骨の中にあるため、トレーニングをしても大きくはならない。脳の重さ、成分、大きさ、ニューロンの数などは、ガムもデビも普通の人たちと同じだ。彼らの脳の働きぶりが通常とは違っていて、その理由が脳の重さやニューロンの数でないなら、きっと脳の使い方が違うのだろう。つまり、より脳にふさわしい使い方をしているのだ。


 2001年、ルーヴァン・カトリック大学の認知神経科学者マウロ・ペゼンティらは、陽電(PET)子放出断層撮影を使用して、リュディガー・ガムの脳と普通の人の脳を比較した論文を発表した。PETでは、特定の作業中に脳のどの領域でより多くのブドウ糖が消費されているのかがわかる。ペゼンティらは、ガムと、数学が苦手ではない学生6人の被験者にいくつかの暗算をさせた。その結果、ガムは計算をする際、他の人と同じ脳の領域を使っているが、同時に前帯状回(ぜんたいじょうかい)(かい)()(ぼう)(かい)といった“エピソード記憶”(自分が経験した出来事についての記憶)に関係する部分なども使用していることがわかった。だが、普通の人が計算する時にこうした領域を使うことはない。


 いったい、ガムやデビはどのように脳を使っているのだろう? たとえとして、水が入った大きなガラスの瓶を思い浮かべてみよう。その瓶は、以前デビが行った13桁のふたつの数字の掛け算のような、数学の問題を表しているとする。瓶には重さがあって、それが問題の“認知負荷”(内容を考え、理解し、覚えようと注意を向ける時にかかる負荷)だ。次に自分の手を想像してほしい。この場合、手は私たちの脳、知的活動の領域を表している。私たちは普段、問題を解く時、つまり瓶を持ち上げる時、小指しか使わない。もちろん、それではとても大変だ。ところがガムやデビは手全体を使うので、瓶をいとも簡単に、しかも長時間持ち上げていられる。


 私たちは課題を解決する時、まず脳のワーキングメモリに頼る。これはさきほどの小指にあたる。ワーキングメモリは、情報を処理するために一時的に保存しておく記憶システムで、たとえば電話番号を覚えておく場合などに使われる。ただ、容量が小さいのですぐにいっぱいになってしまう。


 しかし私たちは、誰もが“エピソード記憶”や“意味記憶”(一般的な知識などについての記憶)、“手続き記憶”(体が覚えている状態の記憶)といった、ワーキングメモリよりもずっとパワフルな記憶を持っている。小指以外の指にあたるこれらは、長期間の記憶を可能にするものだ。ガムやデビのような天才が私たちと違うのは、エピソード記憶のような強力な記憶を有効に使っている、つまり脳にふさわしい使い方を知っている点だろう。彼らの能力は、神経人間工学をうまく使って身につけたものだ。脳を上手に使うノウハウはほとんどが後天的に得られるもので、生まれつき持っている人はまずいない。だから粘り強く身につけていくしかない。


 アメリカの心理学者ジェームズ・ギブソンが考案した“アフォーダンス”という概念は、環境が動物に“提供”するために備えている価値や意味のことをいう。たとえば、そもそも鍋自体は、人が“つかむ”という動作をアフォードしているが、鍋の取っ手はその“つかむ”という行為のアフォーダンスをより具体的なかたちで提供しているといえる。


 手を広げた時の親指から小指までの距離、つまりスパンによって自分がどれくらいの大きさのものをつかめるかが決まる。しかし取っ手があれば、もっと大きなものもつかむことができる。同様に私たちの脳は、自分の意識のスパンよりも大きな概念でも、取っ手があればつかむことができるだろう。もし、抽象的な概念に気の利いた取っ手をつけることができるなら、それはとても神経人間工学的な行為だといえる。

“人間は脳の10パーセントしか使っていない”とよくいわれるが、これはただの作り話にすぎない。そもそも“10パーセント”とは何に関してなのだろう? 脳の重さについてか、脳の消費エネルギーについてなのか、はたまた脳細胞についてだろうか? 私たちがこの話に興味を()かれるのは、数字や得点やパーセンテージに反応するよう条件づけられているからだ。


 フランスの思想家ルネ・ゲノンは、著書『Le Règne de la Quantité et les Signes des Temps(量の支配と時の兆し)』で、すべてのものごとをもっぱら“量”の観点にまで引き下げてしまう現代人の気質について論じ、現代を本質的に“量の支配”として定義しうると述べている。

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