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大分断 教育がもたらす新たな階級化社会
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教育
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はじめに

『大分断 教育がもたらす新たな階級化社会』
[著]エマニュエル・トッド [訳]大野舞 [発行]PHP研究所


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本書は、日本の読者に向けて独占インタビューを行ない、その内容を中心に刊行するものである。インタビューはパリのエマニュエル・トッド氏の自宅で行なわれた。


階級化した世界



 今、我々は「思想の大いなる噓の時代」に直面しています。先進諸国では、識字率が上がり、多くの人が民主主義について語れるようになり、あらゆる民主的な制度が存在し、投票制度も、政党も、報道の自由もあります。しかし、実際には社会はいくつものブロックに分断されてしまい、人々が「自分たちは不平等を生きている」ことを知っている状態にいます。構造としては、上層部に「集団エリート」の層があり、その下に完全に()(がい)された人々、例えばフランスでは国民連合(旧・国民戦線。反移民などを掲げる極右政党)に票を入れるような層があります。そしてその間には、何層にもなった中間層が存在しています。


 このような構造の中で、民主主義のシステムは機能不全に(おちい)ってしまったのです。民主主義に基づいて築かれた制度は問題なく機能し、国としては全ての自由を手にしている。にもかかわらず選挙そのものは狂っているとしか思えないものになっている。


 民主主義というのは本来、マジョリティである下層部の人々が力を合わせて上層部の特権階級から社会の改善を手にしようというものです。ですから、民主主義は今、機能不全に陥っている。私はそう考えるわけです。そしてこの機能不全のレベルは教育格差によって決まるのです。


経済構造と教育の歪んだ関係



 私は学ぶという行為自体が目的になるべきだと信じています。学ぶことでより良い人間になれます。そして、知るということ、それ自体が良いことだと思うのです。


 ところが、次第に社会が複雑化し、ますますその深刻さが増している現代社会では、教育は経済的、社会的な成功を収めるためのツールとなってしまいました。人々は社会の中で、経済的に生き延びるために教育を受けるようになったのです。どの国でも親たちは自分の子供の学校での成績に一喜一憂します。それは子供に幸せでより良い人間、より完全な人間になって欲しいというよりも、むしろ良い仕事に()いて欲しいという願望の表れです。こういう意味で、中等・高等教育は歪んだ結果を生み出すと思うのです。


 高等教育を受けるためには最低限の能力がなければいけないのは忘れてはいけません。しかしアメリカの経済学者ブライアン・カプランは、その著作において「教育は、雇用主にとって都合よく仕事に励む、順応主義的な社員を雇うことを可能とした」と述べています(『大学なんか行っても意味はない?─教育反対の経済学』〈みすず書房〉)。この経済構造と教育との歪んだ相互関係は、こうした点で表出してくるのかもしれません。とても優秀と言われる学歴を持つ人間であれば、必ずその人はある程度の能力があり、かつ順応主義者でしょう。だから雇用主は安心して雇うことができるのです。


 しかしここで忘れてはならないのは、社会全体がそうなってしまったら、その社会の進歩は止まってしまうということです。


高等教育が無能なエリートたちを生み出した



 グローバル化が進み、国際競争がますます激しくなっていく世界で経済的に生き延びるために高等教育が存在し、それが社会的な区分のためのツールとなってしまった今、認知レベルにおいての欠陥が世界のあちこちで危機的な状態を生み出していると思います。


 これは社会によって異なる分野で表出します。例えばフランスの場合は統一通貨ユーロに関して起きています。では日本ではどうでしょうか。日本は、貿易面や通貨政策の面では、この困難な時代の中、割とうまくすり抜けてきたと思います。しかし、人口管理の分野においては危機的状況にあります。出生率が非常に低い状態が長期間続いている中で、大国として経済的なバランスを保ったまま、移民についても触れることなくそのまま生き延びられると考えてしまうのは、エリート層・指導者層の人々の認知的な側面での欠陥とも言えるのではないでしょうか。


 非常に優秀と言われる高等教育を受けたエリートたちに指導されているはずの国々で、このような状況が見受けられるのが現状です。高等教育の発展が、実は知性にとっては非生産的な結果をもたらしたと言えるかもしれません。


 今の若者たちは現状のシステムに疲れています。もし希望があるならば、この世界、あるいはシステムから出たい、と思う人々がいるのです。イギリスのブレグジット(EU離脱)や、フランスで起きた黄色いベスト運動などは、その好例です。


 今のシステムの基盤は、野望、順応主義、そしてお金でしょう。ではこのシステムの中で生き延びることに注力するのか、あるいはそんなところから抜け出そうとするのか。


 もちろん一人だけでシステムから抜け出すのは困難極まることですが、もしそれを多くの人々と共有できたならば、意外と簡単だったりするのです。


 そしてある瞬間、社会の転換が起きるのです。それが新たな分断なのか、あるいは革命なのか、それはまだわかりません。


分断された世界はパンデミック以後にどう変わるか



 二〇二〇年、新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)が猛威を振るいました。多くの国はロックダウン(都市封鎖)を行ない、経済活動や人の行き来を停止しました。


 コロナ以後(ポスト・コロナ)について、私は「何も変わらないが、物事は加速し、悪化する」という考えです。


 コロナ危機が収束の(きざ)しを見せ始めた頃、アメリカでは、白人警官による黒人市民の殺害が社会的波紋を引き起こし、全米で黒人差別に反対する大規模なデモが起きました。このデモには、黒人のみならず、高等教育を受けた若い白人たち──主にバーニー・サンダースの支持層──が多数参加しました。


 コロナ危機後の最初の出来事がこのアメリカで起きたデモだとすると、実はコロナ以前のアメリカにすでに存在していた傾向と、今起きていることの本質は全く変わっていない、ということがわかるでしょう。というのも、コロナ以前から白人の若者も、高等教育を受けた若者も、非・特権階級化しているという傾向はすでに見られていたからです。これは本書で詳しく述べますが、まず、高等教育を受けた一部の特権階級が、自由貿易を社会に押しつけました。そこから徐々に教育の階層化という現象が起き、高等教育を受けた若者も自由貿易によって苦しむようになったのです。教育の階層化が国家を解体し、自由貿易へと社会を推し進めていったのです。


 コロナ危機はこの傾向をより悪化させたというわけです。また、そういう意味ではフランスのような国では、社会の貧困化がさらに進むでしょう。ヨーロッパという(くく)りでは、北と南の対立が悪化することでしょう。



 本書では、高等教育が引き起こした社会の分断と格差について主に論じています。さらに、それに関連してグローバル化疲れ(グローバリゼーション・ファティーグ)についても分析しました。私は、これまでの研究者人生の中で、ソ連の崩壊やアラブの春、トランプ大統領の誕生などについて予測し、それらは(こん)(にち)まで割と適切な予測であったと思います。ただ、私はアナール学派(フランス現代歴史学の学派の一つ)から教えてもらった変数を使い続け、それらを現代社会や社会の未来に当てはめて研究を進めただけなのです。アナール学派はそもそも社会のダイナミズムの本質を見抜いた人々だったため、それに続く私の分析も高性能なものとなりえた、ということを付け加えておきましょう。


 最後に、本書は私の友人である翻訳者の大野舞氏と、編集者の大岩央氏の勧めによって形になりました。本書が読者の皆さんにとってこれからの世界を考える一助になれば、嬉しく思います。


エマニュエル・トッド

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