『悩んでいる自分から1歩抜け出す HOP STEP JUMP(KKロングセラーズ)』
[著]深川富美代
[発行]PHP研究所
★心の健康セルフケア
心の健康にとって、一番やっかいなのは「不安感」と「怒り」の取り扱い方です。
●不安感が強い。
●いつも何かしら不安。
●不安なことや心配なことがある。
●もともと心配性。
●イライラする。
●怒りが収まらない。
●我慢できないことがある。
クリニックでお話を聞いていると、(こんな理不尽なことがあるものなんだ~)と感じるようなひどい出来事や、(他人にそういう恐ろしい仕打ちをできる人が世の中にいるんだ~)とそら恐ろしくなるような話が出てきます。
世の中にひどい出来事やひどい人がいるのは知っていても、まさか自分がそれに遭遇してしまうなんて! と皆さん嘆いています。
一つ一つのケースや、自分の置かれている立場は各々異なります。
ただ、自分が一〇〇歳まで心の健康を保って元気に幸せでいたい、という適正な心の健康目標にとって、私たちが行う対応策はたったひとつしかありません。
いきなりですが、一つ質問です。
ここにリンゴが一つあって、
「このリンゴは、心筋梗塞と狭心症などの心臓病、ガン、気管支喘息、肥満、うつ病、高血圧症、胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、潰瘍性嘔吐、糖尿病、アトピー性皮膚炎、慢性関節リウマチ、腰痛症、メニエール病、顎関節症の原因になるリンゴです。ちょっと持っていていただけませんか?」
と頼まれたら、どうしますか?
持つのなんかいやですよね? 触るのもごめんこうむりたい。
ましてや「食べてみてください」と言われたらどうしますか?
「すぐにどれかの病気になるわけではありませんから」と言われたって、とても口になどできないことでしょう。
悩みや痛みなどのストレスを抱えている人は、この恐ろしいリンゴをちょっとずつ、かじっているのと同じなのです。
実は、含まれている疾病には、かかりやすい気質や行動パターンがあるのです。
・常にイライラ感が強い人や、性格や行動が攻撃的・挑戦的で怒りっぽく、競争心や攻撃性が強い行動パターンの人は、心筋梗塞・狭心症などの心臓病、血管疾患のリスクが高くなります(アメリカのFriedmanとRosenman,一九五九)。
・怒り・不安・絶望感・無力感といった否定的な感情を抑制する傾向をもちストレスをため込みやすいタイプはガンになる確率が高くなります(Lydia Temoshokら)。
・否定的な感情や考えを抱きやすい傾向と他者からの否認や非難などをおそれるために、否定的な感情を表現できない傾向を合わせもったタイプは心血管疾患の発症が三倍になり(オランダのティルブルフ大学の研究)、心理的苦痛を感じるリスクが四、五倍になります(岡山大学の研究)。
ストレスコーピング(対処法)のできないタイプは、ストレス病と称される疾患にかかる率がかなり高くなります。
さらに、イヤなことがあって不安や不平不満、怒りをため込むだけでなく、家に帰って目の前にイヤなことがなくなっているにも関わらず、そのことをクヨクヨ考え込んだり思い出してずっとイライラから解放されない人もいます。
そういう人は、あのリンゴを持って帰って、家の中で大きな木に育てて、そのリンゴの実を毎日毎晩食べているようなものです。
★自分の心にイヤな感情を居つかせないことを優先しよう
どんなにイヤなことがあろうとひどい目に遭おうと、その悩みから生じるイライラや不平不満を自分の心の中に居つかせてはいけないのです。
ひどい仕打ちを受けたり、耐えがたい体験をすると、いったんは怒りや不平不満、絶望感、無力感、憤りなどの否定的な感情が生まれます。
ネガティブな感情でも自然なこととして認めましょう。受け入れましょう。
仕方がありません。沸きあがる自分の感情ですから。
自分の感性では、カチン! ときたのですから、それが私の心です。素直に感じて良いのです。
それを否定しようとしたり、無理やり押さえつけると、それは前述したガン発症のリスクの高いタイプになります。
自分の心の健康を大切にするのであれば、その自分の心を認めて、
その原因になった人やことなど対象そのものに正しく伝えるのが一番です。
そのままの自分の気持ちを伝えます。きちんと伝わるように伝えるのが一番のポイントです。
伝わらないと、自分にとって更なるストレスになります。
相手を非難したり悪いところを指摘したりするのではありません。相手を変えようとすると、自分を正当化するような批判や抗議になって、相手も心を閉ざしてしまいます。
「今の言葉で、私はこれまで一生懸命やってきたことを否定されたように感じて、ものすごく悲しいです」
「そんなふうに皆の前で怒鳴られると、私もやる気が無くなってしまいます」
このように自分が怒った対象に怒ったということを伝えます。
ショックを受けたのなら、「ショックを受けました」と言ってよいと思います。
崩れ落ちそうになるくらい衝撃をうけたのに、無理して平静を装う方が不自然です。
その場では無理だな、とか今伝えるのは得策でないぞ、と考えるゆとりがあるのなら、落ち着いていろいろな作戦を練って、その伝える方法を考えましょう。
不平不満や怒りなどのネガティブな感情から、今度は解決策を考えるというポジティブな考え・行動へと変換でき、自分自身も成長することにつながります。
①伝え方が適切で、②相手との関係、③相手の理解力がそろえば、解決するでしょう。
①②は自分のこれまでの実績や力が試されます。③は自分の伝え方にもよりますが、万全を尽くして理解がえられなかったら、相手にはそういう理解力や、受け入れる能力がないんだな、と客観的にわかります。
自分の心になるべくイヤな感情を居つかせないことを優先しましょう。
けれども、気付かないふりをしたり、自分に我慢を強いるのはやめましょう。傷つけられた自分を更に傷つけることになってしまいます。
最近は、いきなり休職したり退職する人が増え、そうなってから聞き取り調査をして、ようやくこれまで溜まりに溜まったうっぷんが発覚するそうです。
定期的にメンタルケアやストレスチェックをして、精神的なリスクマネージメントをしないといけないそうです。
けれどもアレルギーのコップ理論やダムの決壊と同じで、一線を越える前なら予防できるし、ケアも簡単ですが、いったん崩れてしまうと、修復が困難になったり、打つ手が無くなってしまいます。
自分で気づかないふりをしたり、「言ってもどうせ無駄」と我慢しているつもりなのは、頭だけです。心も身体も崩壊寸前かもしれないのです。
コップから溢れる前に、しっかり自分の素直な気持ちを受け入れて、自分の心のケアは自分でしてあげましょう。
更にもう一つ心がけて、絶対にやってはいけない大切なことがあります。
★大切な人にイヤな話をしない
「悩みを一人で抱え込まないように」と一般的に言われます。それは、一人で考え込んでいると負のスパイラルにはまり込んでしまう危険性があるからです。
適切な人や機関に相談することで、前向きな打開策が見つかる場合もあります。人に悩みを相談されて「信頼されているんだなあ」と嬉しくなった体験もありますよね。
ただ、ここで絶対にやめていただきたいことがあります。
それは、解決策を求めるのではなく「ただ自分の悩みを暴露したいだけ、発散したいだけ、聞いてもらいたいだけ」の愚痴を、大切な人に「悩み相談」の名目で浴びせ続けることです。
自分の味方や理解者に、自分の中にため込んだ不平不満・怒りや憤りなどのネガティブな感情をぶつけているだけなのです。
それは先ほどの、「このリンゴ持っていて」や「食べて」と頼むのと全く同じことなのです。
自分に対してイヤなことをした、理不尽な仕打ちをした相手に対しては、何も言い返さず自分の思いを伝えずにいい顔を見せているのにも関わらず、自分の信頼している人、好きな人、理解をしてくれている人、優しく話を聞いてくれる人に対しては、自分の抱えているネガティブな想い、いわばダークサイドをさらけ出すのです。