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体にあらわれる心の病気 「原因不明の身体症状」との付き合い方
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くらし
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プロローグ

『体にあらわれる心の病気 「原因不明の身体症状」との付き合い方』
[著]磯部潮 [発行]PHP研究所


読了目安時間:8分
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 みなさんはこんな経験をしたことはないでしょうか。


ケース1


 最近、体がどうにもだるくてしかたがない。それでどこか悪いんじゃないかと思って、近くの総合病院へ行き、内科でいろいろと検査をしてもらったけれど、どこも悪くないと説明を受けた。でも体のだるさは続いている。やっぱりどこか悪いんじゃないのか。違う病院へ行った方がいいのだろうか?


ケース2


 お腹の痛みがあって大きな病院へ行ったら、まず消化器科でどこも悪くないといわれ、次に産婦人科を紹介されたけれど、そこでも悪いところはないといわれた。それでも痛みがあると話したら、腰に原因があるかもしれないといわれ、整形外科にも紹介されて検査を受けたけれど、悪いところはみつからなかった。そしてたらい回しされたあげくに今度は精神的に問題があるといわれて、心療内科へ行ったらどうかとまでいわれた。別に今のところ悩んでいることもないし、全くひどい話だ。


ケース3


 のどに食べ物が通るときに、しみるような痛みがある。食道癌かもしれない。それで近くの総合病院へ行って、詳しい検査をしてもらったけれど、どこも悪いところはないといわれた。それでも痛みは続いている。やっぱり癌じゃないのか?


ケース4


 近頃、年のせいか生理がだんだん不順になってきた。全身がだるいし、体が熱くなったり、歩くとフワフワしたような感じになる。更年期障害かと思って産婦人科でホルモンの検査を受けたけれど、異常はなかった。それはそれでよかったが、医者は自律神経のせいだといって精神安定剤を出してくれた。薬なんて怖いからできれば飲みたくないのだが、どうすればいいんだろう?


異常がみつからない痛みやだるさ


 みなさんが自分自身で経験したことがなくても、ご家族の誰かが同じような体験をしたり、知り合いから同様の話を聞いたりしたことのある人は多いでしょう。


 このようなことは、私たちの普段の生活のなかで、ごく日常的に起こっています。そしてこれらこそが、この本で私がお話ししようとするテーマの典型的なケース──すなわち内科、外科、整形外科、産婦人科、耳鼻科などの一般科(精神科以外の科)の検査では異常は認められないけれども、実際には(すなわち臨床的には)身体症状、あるいは身体症状の訴えが存在するケース──なのです。


 一般科の領域、主に内科領域において、このようなケースは自律神経失調症、不定愁訴症候群、心身症、仮面うつ病、更年期障害などと呼ばれています。しかしこれらの診断名は、医師の側からいえば、それぞれの科における適切な診断が下せないために、どちらかといえば消極的な診断名として用いられている場合が多いのではないかと考えられます。その証拠に、これらの診断名の医学的な定義づけは、現状では非常にあいまいなものになっています。


 一方、精神科領域で、現在世界的に最もよく用いられているDSM-Ⅳというアメリカ精神医学会の診断基準では、これらのケースについては多くの場合、身体表現性障害という診断名がつきます。しかし身体表現性障害という病名は、日本では一般的に全くといっていいほど知られておらず、精神科医の間でも、この身体表現性障害という病名が用いられることはほとんどありません。このような場合、日本では、心気症という診断名を使用することが多いのですが、いずれにせよ、これらのケースに対する診断は、精神科領域においても混乱した状況にあるといわざるをえません。


本書の目的


 しかしながら、これらのケースは、実は同じ一つの病気であると考えられます。であれば、内科領域であろうが精神科領域であろうが、同じ診断名がつけられるのが望ましいのは当然です。


 しかし現状を考えると、ことはそう簡単ではなさそうです。そこで本書では、検査では異常が認められないが身体症状は存在する、すなわち「原因不明の身体症状」を有する患者さんにつけられるさまざまな病名について、内科的・精神科的な疾患概念(一般身体科や精神科でつけられる病名の内容)とその病態(それらの病気で出現する身体症状の様式)を解説することを第一の目的にしたいと思います。


 次に考えなければいけない問題は、一般科で自律神経失調症や心身症などの診断名がつくのはまだましな方であるという現状です。というのも臨床の現場で、医師がデータに合致しない身体症状を執拗に訴え続ける患者さんに対して、「そんなはずはない」「気のせいだ」「いっていることがおかしい」「精神科へ行け」などと、なかば罵倒するような発言をするということを、残念ながら耳にすることがあります。


 患者さんはたいへんな苦痛を感じているにもかかわらず、それを医師に全く理解してもらえず、痛みを否定されることで苦痛がさらに増強したり、イライラがつのったり、落ち込んだりします。覚悟を決めて精神科を受診しても、精神科医の間でもこのような病気に対する理解が低いのは先ほど説明した通りです。それどころか、病気であると訴え続ける患者さんに対して、心気症のドイツ語名である「ヒポコンドリー(hypochondriasis)」をもじって「ヒポコン」などと蔑称をつけ、バカにしているような風潮さえあります。


 そこで本書の第二の目的として、実際に「原因不明の身体症状」を訴える患者さん自身が、その症状をいかに理解し、どのように対処したらよいのかということへの一つの指針を、具体例を挙げながら、提示したいと思います。


 具体的には「原因不明の身体症状」を訴える患者さんが、なぜ内科医などの一般科医師に嫌われて邪険な扱いを受けたり、各科をたらい回しにされたりするような悪循環に陥っていくのか、なぜ彼らはこんなに苦しんでいるのに救ってもらえないのか、まず、その問題の構造を解き明かします。


 その上で、「原因不明の身体症状」を主訴とする患者さんにはどんな訴えが多いのか、性別はどうなのか、症状が出現する年齢は何歳ぐらいが多いのか、性格的にはどんな人がなりやすいのか、なにかストレスがあって症状が出現するのか、出現するとすればどのようなストレスが多いのか、同時に複数の身体症状が出現するのか、単一の身体症状が出現するのか、どのような経過をたどっていくのか、などについて私の研究をもとにお話を進めていきたいと考えています。さらに、患者さんが苦しみを和らげるための対処方法と、また、家族や周囲の人々の対応の仕方についてもアドバイスしたいと思っています。


今も苦しむ多くの患者さんのために


 私は以前、精神科病棟を持たない(入院施設のない)中規模の総合病院の精神科外来に長く勤めていました。その間、これらの「原因不明の身体症状」に苦しんでいる患者さんがほんとうにたくさんいるということを痛感させられました。そこで私は、これらの患者さんのうちの一五五名を対象として臨床的研究を行ったところ、「原因不明の身体症状」に苦しんでいる患者さんのなかでも、その臨床的経過には差異があり、それはいくつかのパターンに分けられるということがわかりました。そして、詳しくは本文中で述べますが、各パターンで経過は異なっているものの、医師─患者関係に一定の安定が得られれば、そこに治癒の方向性がみえてくることもわかってきました。


 これまで述べてきたように、「原因不明の身体症状」についての診断は錯綜し、現状では統一的な見解は全く得られていません。内科領域での「心身症」、精神科領域での「うつ病の身体症状」など、個々の専門領域での解説書はときに見受けられますが、全部をひっくるめた総合的な見地からの一般向けの解説書は、ほとんど出ていません。


 私事になりますが、私が執筆しました「無床総合病院精神科における身体表現性障害の臨床的研究」という研究論文は、日本総合病院精神医学会(会員は医師中心で約二〇〇〇名)の平成十一年度の最優秀論文に満場一致で選出され、金子賞という栄えある賞を頂きました。授賞理由は「原因不明の身体症状」を主訴とする患者さんの臨床研究は日本ではこれまで全くなかったことがその第一の理由です。


 私はこれまで、大変な苦痛を抱えているにもかかわらず、家族や周囲の人々には冷たい目でみられ、医師からも見放されている「原因不明の身体症状」を訴える多くの患者さんに出会ってきました。私自身、精神科医としてこれらの患者さんに教えられて成長し、そのうえ賞まで頂くことができました。だから本書は、いってみれば彼らへの恩返しです。


 全国で今もまだ悩んでいる多くの人がその苦しみから少しでも解放されるように、そして医師や家族や周囲の人の彼らに対する理解が少しでも深まるようにと願い、この本を書くことにしました。

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