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世の中がわかる「○○主義」の基礎知識
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生き方・教養
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プロローグ──世界と自分を決める「○○主義」「○○イズム」

『世の中がわかる「○○主義」の基礎知識』
[著]吉岡友治 [発行]PHP研究所


読了目安時間:10分
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 この世は、「○○主義」「○○イズム」で動いている。我々の経済体制は資本主義(capitalism)だし、身体は代謝(metabolism)で動いている。政治は民主主義(democracy)である。グローバリズム(globalism)のおかげで給料は下がり、仕事はきつくなる。他方で「日本人なんだから自分の国を愛せ」と愛国心(nationalism)(あお)られる。そうかと思うと、愛国心は愛郷心(patriotism)とは違うという反対意見もある。うーむ、もっとリアリズム(realism)に徹して考えないと、大変なことになりそうだ……。


 こんなふうに、我々は「○○主義」「○○イズム」の奔流の中で、あちこちこづき回されており、「お前はいったいどっちの陣営だ」と追及される。「ちょっと待ってくれ」などと言おうものなら、相対主義(relativism)だとにらまれる。ひどいときには「裏切り者」としてテロリズム(terrorism)を仕掛けられる。「思想なんかいらない生活」どころか、次から次へと襲ってくる主義・イズムの波をやりすごしていかなければ、サバイバルすることさえ難しい。しかし、私はいったい「何主義者」「何イスト」なのだろうか?


主義とは何か?


 たしかに「○○主義」「○○イズム」といっても、よく分からない。かつては「主義者」というだけで「共産主義者」「社会主義者」という特定の政治信条の持ち主を意味して、危険視された。


 しかし、「○○主義」「○○イズム」は危険思想とは限らない。むしろ、人間の考えはすべてそれで分類できる。たとえば、「主義」なんか関係ない、人それぞれでいいという否定論は相対主義。絶対的な真理なんかないのは懐疑主義(skepticism)。この世などすべて無意味だと決めつけるのもニヒリズム(nihilism)。どのように「○○主義」「○○イズム」から逃れようとしても、結局はその枠内に入ってしまう。


 しかも、「○○イズム」は思想信条だけではない。サディズムは()(ぎやく)主義ではないし、マゾヒズムは()(ぎやく)主義ではない。これらは、むしろ「嗜虐趣味」「被虐趣味」「自己愛的傾向」と訳したほうがよい。クラシシズム(古典主義)やロマンティシズムは、何が美しいかという美意識だ。スピリチュアリズムは霊魂主義ではなく、魂を重視する宗教的心情だし、オカルティズムは儀式や超能力に心酔する宗教的傾向である。このように並べてみれば、「○○主義」「○○イズム」は性的趣味、美意識、宗教心まで、人間の考え方・感じ方・行動のパターンを包括的に示すことが分かる。こんな複雑な意味のネットワークの中で、自分が「何主義者」「何イスト」なのか決めなければならない。たしかに難儀なことである。


個性とは隙間である


 実際、多少とも成熟した大人ならば、自分の考え方・感じ方を確立する難しさを感じないわけにはいかないだろう。情報化の進行とともに、我々は既成のさまざまな考え方・情報・宣伝 etc. に影響される。ニュースには毎日大事件があふれ、識者はあれこれ解説する。今日はある意見に納得し、明日は他の意見にうならされる。あまりの定見のなさに「自分はいったい何/誰なのか?」と悩まされる。それでもいじらしく「自分らしい」考え方・行動を模索する。


 つまり現代では、個性的な考え方とか個人的信条とは、他のどこにもない唯一無二の考え方(そもそも、これがロマンティシズムの発想だ!ではなく、むしろ「隙間産業」と化しているのだ。さまざまに対立拮抗する思想・情報の中で、どれとも少しずつ関係しながらも、そのどれとも少しずつ違っており自分の今の感じ方と矛盾していないような考えを選ぶ──それが、とりあえず自分の個性・信条になる。


 もちろん、その中には、ナショナリズムの大波にまるごと飲み込まれたいと願う「権威主義的パーソナリティ」もいる。しかし、それでも自分のフィーリングに合う断片を何とか探し出し、それを元に自分なりに組み合わせて仕立て直すのが誠実な態度というものだろう。でも、そのためにはどうしたらいいのか?


賞味期限切れの二分法


 とりあえず、「正しい/間違っている」とか「好き/嫌い」などという二つに分けてみるか? しかし、この方法は粗雑すぎてあんまりあてにできない。たとえば、正義/悪という二分法。そもそも「この世を破滅させてやるぞ」とうそぶく「悪の化身」なぞ、今や漫画にだって出てこない。この世を破滅させたら当然自分も破滅する。そんなバカな自殺願望を持っている「悪の化身」など存在するはずがない。あるいは「好き/嫌い」に分けてみたらどうか? でも、自分の好きなものだって永久不滅ではない。好きだと思ったものにいつの間にか飽きたり、昔の自分はだまされていたんだ、と後悔したり、「好き/嫌い」の判断が変わることもしばしば。ならば、「進歩/保守」はどうか? しかし、これもソビエト崩壊以後、社会主義者が「保守派」で、資本主義者が「進歩派」と呼ばれるに至った。しばらく前の分類と真っ逆様。二つに分けても、どちらがどう違っているのか、さっぱり分からない。もう、このような簡単なレッテル付けでは、どうにもならなくなっているのである。


脳内マップの効用


 高校生の頃だったか、ノートの裏表紙に自分の脳内マップを描いてみたことがある。自分が今何をどんなふうに考えているか、思いつくままに気になる単語をあれこれ並べて、その関係を矢印や等号でつなげてみたのである。

社会主義」「資本主義」という社会科学系単語があるかと思うと、「実存」「学歴」「昼寝」「落ち込み」なんて単語もある。そばにはところどころ「nonsense!」なんて注釈付き。もちろん、当時つき合っていたガールフレンドの名前もあり、上から大きくバツが描かれている。手ひどく失恋したと見える。その横に、『結晶世界』なんてレアものSF小説のタイトルもある。矢印の横には「発展」とか「対立」とか、「包含」などと相互関係のメモ。描き出すと止まらず、一晩かかってあれこれ書き加えていたのを覚えている。しかし、終わったとたん、もやもやしていた頭がすっきりした。


 それまでただ言われるまま・受け入れるままだった言葉が、自分にとって持つ意味合い・肌合いがなんとなく了解できたからだと思う。言語学でもいうとおり、単語それ自体に意味はない。むしろ、単語と単語の関係=ネットワークが広がるにつれ、言葉の意味は生まれてくる。自分なりのネットワークを図示していくと、そこに自分のイメージやニュアンスが現れてくる。「数学」が「私小説」と結びついたり、辞書にはない自分独自の世界像がそこに見えてくる。言葉のネットワークは、そのまま私の感じている世界なのだ。


複雑な関係を一挙に頭に入れる


 現代では、思想はすごく複雑な様相をしている。だから、「好き/嫌い」だけではどうにもならないのだ。社会主義だって、スターリンに代表される一国社会主義とチェ・ゲバラをシンボルとする国際社会主義、さらにはヒトラーに代表される国家社会主義まであって、それぞれが「自分の主張こそ正しくて相手の主張は間違っている」と互いにいがみ合う。しかし、よく見るとそれぞれに得失があり、一概にどれがいいなどと簡単には決められないのが現状だ。それに気づかないで、「同じ社会主義だから大した違いはないだろう」なんて考えると大変なことになる。


 いわば、それぞれの思想や考え方はショーウィンドウの中で綺麗な色と飾り付けで輝いているのだ。どれも魅力的だが、それぞれ味が違っているだけでなく、よい点の裏には望ましくない点があり、一つを選べばすべてハッピーとはならない。その違いを区別するには、その端切れを少しずつ試してみるのが賢い消費者というものだろう。そうしているうちに、「甘いものは何でもおいしい」という子供の味覚から、苦みや発酵味も「なかなかの味わいだ」と思える大人の味覚に発展できる。サンプルをあれこれ味わい分ける時間が必要なのである。


自分なりの全体観を持つ


 しかし、社会思想を説明した本には、いままでそういう消費者マインドに配慮したものはなかったように思う。社会主義を説明する本はあっても、それを書いた人が「社会主義者」では、自分の主義ばかりをひいきしたものになるおそれがある。これは、「資本主義者」の書いたものでも同じこと。


 しかし、迷っているときに聞きたいのは、そういうバイアスのかかった意見・価値判断ではない。社会主義は資本主義の何を解決しようとして考え出されたのか、それは解決できたか、失敗したとしたらその理由は何か、資本主義は社会主義の影響を受けてどう変わったか? など、相互に対立する考え方のメカニズムや相互関係などを、大ざっぱでいいから、とりあえず知りたいのだ。その全体観を持ったうえで、自分がどうするかを判断したい。ゆっくり選びたいのに、横から店員がいろいろ「これがいいですよ」と押しつけてくるのは(わずら)わしい。


 その意味で、この本はちょっとした主義・主張のサンプル集である。読者はいろいろ試してみて、それから「これは」と思ったものを使用する分だけ買い込めばよい。もちろん、これはサンプルにすぎないから、正確さを目指すものではない。面倒な専門用語はできるだけ排除したし、細かい議論も大部分省略した。あえてエピソードに頼った叙述もしている。その代わり、本質を単純明快に示し、他の主義との関係も公平に示そうと試みた。結果として、言い過ぎたり言い足りないところも出てきたかもしれない。食い足りない方は、それぞれの専門分野の書物を読んでほしい。食欲旺盛な方にはフルコースが向いている。


「世界全体」のイメージを持つ


 しかし、そんな手間と時間をかけていられない向きには、さまざまな「○○主義」「○○イズム」が人間の頭の中でどう一貫した形で位置づけされるか、表示してみるのは大きな意味がある。なぜなら、いかに不十分でも、それは、「この世界全体」のイメージであり、単なる断片化された情報の集積ではないからだ。要は全体観として印象が強く、分かりやすければよいのであり、それを感得すれば、自分が何か発言したり表現したりするときの「使えるフレーズ」ともなるだろう。社会思想小咄集として気軽に読んでくれればよい。


 思想や主義は、それを使って自分の身の回りの問題を分析したり、解決したりできなければ意味はないと私は信じている。その意味で、思想とは、考えた人の個人的な所有物や作品ではなく、むしろ社会的に提供する道具の一つだ。それを使って、判断が楽にできるようになるのだったら、それを考え出した人間=思想家としては冥利に尽きるだろう。


 もちろん、レシピの中に私なりの味付けもちょっぴり入っている。「え、この○○イズムがこんなものと結びつくの?」と仰天されるかもしれない。しかし、こういう基礎情報は公開することに意味がある。後は各自で自分の好みに合わせてカスタマイズしていただければよりよいものになるはずだ。願わくは読者が「こいつ、こんなバカなことを言って!」と苦笑いしながら、自分なりの修正をこの小著につけ加えてくれれば、筆者としては本望である。

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