読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン

犬耳書店はRenta!へ統合いたします

(2021/11/26 追記)

犬耳書店の作品をRenta!に順次移行します。
詳しくはこちらでご確認いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

0
-2
kiji
0
0
1301479
0
知価革命 工業社会が終わる 知価社会が始まる
2
0
0
0
0
0
0
政治・社会
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
第四章 「知価革命」と「知価社会」の本質

『知価革命 工業社会が終わる 知価社会が始まる』
[著]堺屋太一 [発行]PHP研究所


読了目安時間:46分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ


「新社会」を生む「知価革命」




 一九八〇年代に入って急激に拡がり出した変化は、現象的にはコンピュータ・コミュニケーション技術の発達と普及に象徴される「技術革新」として捉えることができる。


 その限りでは内燃機関や電気技術の発展普及、化学工業の拡大と同種の現象、つまり産業革命以来絶えず繰り返されて来た工業社会的技術革新の延長線上の現象ということもできそうに見える。本書の冒頭に書いたように、これからの世の中を「高度技術社会」とか「高度産業社会」とか呼んでいる「高度社会論者」はそう見ているのだ。これからの世の中を「工業社会のより高度な段階」という考え方は、そう理解しなければ成り立たない。


 しかし、この見方は「技術革新」という一面にのみ(とら)われ、それを引き起している背景についての考慮を欠いているように思えてならない。つまり、一九六〇年に生活文化領域に起った変革、七〇年代に定着した資源環境有限感、それらが生み出した物的数量への欲求の低下と知恵の値打ちに対する希求の高まり、および技術進歩の方向の変化といった多様な流れの中で、その一貫として技術革新を捉える巨視的な観察が欠けている。


 マリリン・ファーガソンも指摘しているように、当初は社会の各分野において散発的・個別的に発生する変化が、ある段階に結合して、社会全般の規範(パラダイム)を変え、新しい社会段階を創るものだ。その意味では、目下の技術革新を、社会の全分野の変化の流れの中でどう位置づけるかこそが重要なのである。


 エレクトロニクスを中心とするコンピュータ・コミュニケーション技術の発達は、一九八〇年代に入って急に起ったことではない。六〇年代後半から七〇年代にかけても、これらの技術は急速に進みつつあったし、ますます発展することも十分予想されていた。だが、当時は、今日見られるような小型化・分散化が進み、多様化や省資源化、娯楽サービスの面にも多用されるとは想像されていなかった。七〇年代に(らん)(ぱつ)された「未来のコンピュータ社会」像はみな、超大型コンピュータと全国の端末機器を結んでタイムシェアリングで使用するという一点集中型の構図だった。超小型コンピュータ、いわゆるパソコンを最初に開発したのが、技術的に先端を行っていたIBMのような巨大企業ではなく、ベンチャービジネス型の新興小企業だったことも、この間の事情を示している。


 要するに、一九八〇年代に入って一挙に噴出したコンピュータ・コミュニケーション技術の発展と普及は、連続的に進行していた技術進歩が、人々の欲求の変化によって方向を変え、予想外の分野においても爆発的に拡まり出した現象なのだ。そしてそれを生み出したのは、七〇年代に浸透した資源有限感によって生じた人々の欲求の変化、つまり美意識と倫理観の変化だといえる。


 この点において、目下進行中のコンピュータ・コミュニケーションを中心とする技術進歩は、一九世紀末から二〇世紀の前半にかけて繰り返された内燃機関や電気技術、化学工業の発達などとは全く違った社会的影響を持っている。つまり、産業革命以来の技術革新は、物財の量的増大を求める欲求に従って進んだものであり、主として物財供給量の増大と加工度の向上に役立った。ところが、今、進行している技術革新は、主として多様化、情報化による「知価」部分の増大と省資源化による物財消費の削減を目指すものだ。いいかえれば、創造的「知価」の供給増加にこそ役立つ種類のものなのである。


 この違いはきわめて重要であり、本質的でもある。産業革命以来、技術革新は、内燃機関も電気技術も化学工業も、それが増大させようとした物財生産はみな、数値化が可能なものだった。お米や鉄などの素材は勿論、自動車やテレビ、建造物といった高度加工品でも、それぞれの加工度を換算して統一された単位(専ら価格換算された)で計上することが、少なくとも理論的には可能である。従って、国民総生産(GNP)といった概念も成り立ったし、それを時系列的に、あるいは国際的に比較することも可能であった。


 しかし、今進んでいる技術革新が増加させようとしている「知価」創造は、現実的にも理論的にも数値化不可能な性格のものである。デザインの善し悪し、イメージ価値の大小、技術の高低、生活の快適さや都市空間のアメニティといったものは、本質的に主観的か、少なくとも相対的である。これらの価値や価格が経済統計に計上されるのは、人々がそれぞれの主観に応じて対価を支払った結果の集計に過ぎない。従って、その価格が、それを生産するのに投入された費用と見合うという保証は、長期的に考えても全く存在しない。


 一人のデザイナーがヒット商品を創造することもある代りに、千人の大事務所でも全く流行を生み出せないこともある。十八歳の少年がコンピュータ・ソフトで大儲けすることもあるが、三十年のベテランも全くだめなこともある。口コミだけで最高のイメージを得るお店もあれば、大広告の成果が全くないこともある。主観に依存する知価は、いかにそれが社会化されてもやっぱり数値化不可能であり、コストとの関係も存在しない値打ちなのだ。


 こうした社会的主観に依存する数値化できない「知価」への傾斜が深まることは、専ら数値による客観性を重視して来た工業社会的合理精神には許容し難いことだ。当然、それ故の反撥も反感もある。そこから「いろんな運不運があっても全体として巨視的、平均的に見れば、やっぱり価格はコストに見合うはずだ」という主張も出て来るに違いない。


 しかし、仮に日本全体、あるいは日本全体の何年間かといった大数平均をした結果が「価格はコストに見合う」としても(こんな事実があるという証拠は全くない)、物財や単純なサービスにおける如く、「コストに価格が接近する運動を繰り返す」ためではなく、コストから上下双方に大きく乖離した価格がそれぞれ単独に発生した結果の偶然に過ぎない。


 要するに、「知価」の値打ちの形成原理は、工業社会的ではないし、そんな知価に対して欲求を募らせ、惜しみなく対価を支払う精神も、工業社会的合理精神とは異質のものである。


 だからこそ、「知価」が重要な役割を果すような社会──「知価社会」は、工業社会の延長上にある「高度社会」などではなく、工業社会とは全く別の「新社会」なのである。


 今、この一九八〇年代に、日本で、そして世界の先進諸国(とりわけアメリカ)で起っている変革は、単なる技術革新でもなければ、一時的な流行でもない。それは、産業革命以来二百年振りに人類が迎えた「新社会」を生み出す大変革、いわば「知価革命」なのである。


一 「知価」の本質と振舞い



「知価」の本質──社会主観による一過性価値


 では、この「知価革命」を通じて生れる社会、「知価社会」とはどんな社会か。本論の目的は、その予測または概念を提示することにある。だが、それを考える前に、これからの社会で重要性を増して行くであろう「知価」なるものの本質を考えておく必要があるだろう。

知価」が、社会的に一定の広がりを持つ人々の主観、つまり社会的主観によって発生することは既に何度も述べた。そしてその社会的主観は実に変り易い。特に、自由な発言と多様で巨大な情報システムを持った社会においては特にそうであろう。従って、そんな社会主観に依存する「知価」もまた変り易い。しかもその変化は、単に数量的に増減運動を繰り返すだけではなく、しばしば短期間に全くゼロにさえなり得る性格のものである。


 勿論、一般の物財やサービス(前章の貢献面産業分類を利用すれば、物財産業や位置産業の生産する財)でも、価格は需要と供給の関係で激しく上下することがある。鉄一トンの値段が、一年間に五万円から十五万円に急騰することも、その逆の場合も決して珍しくはない。しかし、需給関係で値段は上下しても、鉄本来の価値は、それぞれの時代の社会的条件の範囲内で安定的に存在すると想定することは不可能ではない。だから、鉄が値下がりし過ぎるといずれまた値上がりすると考えられるし、上がり過ぎるとまた下がるとも考えられる。つまり「価値」なるものを中心にして「価格は需給関係に応じて変化する」という従来型の経済学の常識的な説明が通用するわけだ。


 ところが、「知価」はそうではない。例えばあるデザインのネクタイが去年は流行で二万円でもよく売れた。それが今年は流行遅れになって四千円でバーゲンセールに出ているということもよくある。

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:19452文字/本文:22937文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次