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BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは
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人文・科学
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02 モチベーション世界の構造的理解

『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』
[著]青砥瑞人 [発行]ディスカヴァー・トゥエンティワン


読了目安時間:9分
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 モチベーションという言葉を辞書で引くと、こう書かれている。


1 動機を与えること。動機づけ。

2 物事を行うにあたっての、意欲・やる気。または、動因・刺激。(『デジタル大辞泉』小学館)



 この説明は、私たち神経科学の専門家からすると「カオス」である。


 動機を与えること(動機づけ)と与えられること(動因)は、まったく異なる文脈だ。行動を起こすにあたっての意欲と動因、刺激、原因は、すべて違ったシステムである。にもかかわらず、すべてをひっくるめてモチベーションとして捉えられてしまう。辞書に書かれているモチベーションの定義は、神経科学の視点から見ると明確な定義にはなり得ていない。


 ただ、共通して言えるのは、モチベーションが行動の原因であり、その結果として行動が誘引されるという関係性である。



 たとえば、AさんがBさんに突然次のようなお願いをしたとしよう。

「Bさん、1万円のお駄賃をあげるから、1軒先のカフェでコーヒーを買ってきてくれないかな」


 Bさんは(おおっ、それだけで1万円いただけるのか)と、得した気分になるだろう。

「もちろんです。お安い御用です」


 そう言って、嬉々としてお使いに繰り出すはずである。



 このケースであなたに考えてみてほしいのは、Bさんがお使いという行動を起こした瞬間の直接の原因が、1万円というお金なのかという点だ。一般的には、そう見えるかもしれない。しかし、どれほどの大金であろうと、Bさん自身が「お使いに行こう」という状態に変化しない限り、お使いに行くことはない。


 この観点を明確に仕分けて整理することが、モチベーションを定義するうえで重要なベクトルとなる。つまり、モチベーションを捉えるにあたり、


 ① 原因となるお金的な「刺激」があり


 ② それを受けて関連する脳や体内の環境が「変化」を催すことによって


 ③ 「行動」に移る


 という流れを明確に分けていきたい。



 行動という結果に至る過程には、脳を中心とした直接的原因があり、その脳に作用する間接的原因がある。この間接的な「お金的」原因を「モチベータ」と呼ぶ。


 モチベータとして機能するのは、自分の外部にある情報であることが多い。とはいえ、自分が頭の中である想像をして、その想像がきっかけとなってモチベーションに影響を与えるケースもあるため、自分の内側から生まれるモチベータもある。


 そして、ある特定の脳部位にモチベータが届けられたときに起こる神経細胞の反応や、それに伴って放出される化学物質を総称して「モチベーション・メディエータ」と呼ぶ。メディエータは「仲介者」を意味し、何かを媒介する役割を持つものという意味合いがある。


 このモチベーション・メディエータによる反応を意識下に感じた状態、すなわち認知した状態が、「モチベーション」なのである。


 神経科学的にモチベーションを捉えると、次のような整理となる。



 モチベータ=行動を誘引する始点となる間接的な原因


 モチベーション・メディエータ=行動を誘引する直接的な体内(脳内)の状態


 モチベーション=行動を誘引する直接的な体内(脳内)の状態を認識した状態





 モチベーション・メディエータとモチベーションの違いは、平たく言うと、やる気になっている状態と、やる気になっている自分を認知した状態の違いである。前者の、行動を誘引する脳機能と、その状態を認知する後者の脳機能は別なのである。


 何か自分の欲しいものがあったとき、それに対して自分を「ぐっ」と向かわせる無意識的な内側の反応があるはずだ。多くの場合、それが意識されることはないが、その「ぐっ」となっている自分の状態を認識し、感じることもできる。その対象に向かう自分の状態を「いま、自分は『ぐっ』ときているな」と認識する脳の仕組みと、自分を「ぐっ」とさせる脳の仕組みは異なるということだ。



 モチベーションが高まった、モチベーションが低くなったと言えるのは、しっかりと自分の状態を認識しているからだ。モチベーション・メディエータを感じ、認知している状態がモチベーションなのだ。


 そもそも、自分はモチベーションがないという人がいるが、モチベーションがまったくない状態、すなわちモチベーション・メディエータが発露していない人はほとんどない。目を向けていない、認知していないだけと言えるだろう。


 そうなると、自身のメタ認知が重要になる。モチベータやモチベーション・メディエータの状況は、一人ひとりの脳によって違う。違うからこそ、自分で自分のことを見ない限り、モチベーションとはうまく付き合っていけない。


 その点から導き出されるもう一つの重要な観点は、そもそも他人と自分のモチベーションのあり方は、DNAレベルで異なり、体験による記憶が異なり、脳の配線が異なる限り、大きく異なる可能性が高いという点だ。


 自分のモチベーションが高まるからといって、同じ要因によって他人も高まるとは限らない。しかし、人は自分と同じことを他人にも当てはまると無意識のうちに判断してしまう傾向がある。他人には他人のモチベーションの高まりやすい要因がある。その違いを受け入れて尊重し合うこと、モチベーションの多様性を受け入れることが、チームや組織としてのモチベーションを全体として高めるスタートラインとなるだろう。






  モチベーションに関わる脳のシステム



 人間の行動の解は、ある程度脳の仕組みの中でコントロールされていることがわかってきた。その仕組みとは、ここ5年から10年の神経科学でもっとも注目されているトピックのうちの一つである「報酬回路」と呼ばれる脳のシステムである。


 しかしいま、その解が崩れつつある。


 MIT Pressから出版された『Neural Basis of Motivational and Cognitive Control』はモチベーションに関わる非常に難解な専門書で、神経科学を使ってモチベーションを捉えようとしている。この専門書を見れば明らかだが、単に報酬回路だけを見ても、モチベーションの全体像は捉えられないことがわかる。


 人間の脳にはさまざまな系(システム)がある。全体の系の一部としてモチベーションに直接的に関わる報酬回路が存在するが、他の系とどのように相互作用しているかを捉えていくことも重要だ。


 報酬回路だけを見ても、空腹の状態とモチベーションの関係、あるいは睡眠とモチベーションの関係、さらにはストレスとモチベーションの関係などは捉えきれない。どれもモチベーションに影響を及ぼすことは誰しも感じたことがあるはずだ。モチベーションに影響を及ぼす他のシステムにも目を向け、その相互関係を理解しなければ、表層的なモチベーションの事実確認にしかならない。


 実生活において、自分のモチベーションを捉える際に、単に報酬だけに目を向けるのではなく、モチベーションに寄与する可能性のある数々の環境やコンディションも大切な確認ポイントになるということだ。






  脳の構造を認識する



 脳のシステムを理解するには、まずは大まかな脳の構造を理解することをお勧めする。あまり解剖学的な名称には囚われず、どのような位置(脳の上側、下側、内側、外側など)にどのような機能があるかだけでも押さえておくといい。


 人間を含めた動物の脳は、進化の根源となる脳幹部から、より表面に近くなるほど高次の機能をつかさどっている。これを基に人間の行動原理がある程度説明できる。


 脳の下部には、木の幹のような構造をしている「脳幹」という部位がある。この脳幹は、大きく三つの構造体に分かれていて、それぞれ下から「延髄」「橋」「中脳」と呼ばれている。脳の最下部に位置する延髄がつかさどるのは呼吸、体温調節、心拍など、無意識かつ自動的に行われる生存に必須の機能がほとんどである。また、脳幹の上の方にある中脳や、その上側かつ外側に位置する「大脳基底核」と呼ばれる脳部位は、食欲、睡眠、快感などの機能に深く関わっている。





 そして、モチベーションに関わる「腹側被蓋野(VTA=Ventral Tegmental Area)」はドーパミンを放出するが、この部位は中脳の一領域として存在する。ここがさらに上部の大脳辺縁系や大脳新皮質などの高位な部位に影響を及ぼすことになり、その関係性を見るのがモチベーションを捉えるうえでは非常に重要になる。


 脳幹と大脳辺縁系の間に位置する「間脳」は、バイパスとして高次の脳機能と古くからある脳幹をつなぐ。間脳は全身とコミュニケーションを取るため、交感神経、副交感神経といった全身に張り巡らされた自律神経系と連絡を取り合っている。さらに、ホルモンを合成し、化学物質を全身に作用させる機能も持っている。


 大脳辺縁系は学習に重要な部位で、海馬(Hippocampus)や扁桃体(Amygdala)が関与し、感情や記憶に深く関わっている。そこを取り囲むようにして上部に存在しているのが大脳新皮質と呼ばれ、クリエイティビティ、収束思考、発散思考などの思考といった高次の脳処理機能をつかさどっている。


 このような脳の解剖学的な見地から考察した人のモチベーションの構造を、本書では「神経科学的欲求五段階説」と呼ぶことにする。


 脳の機能を見ていくと、古くからある脳機能、すなわち脳の下部の構造がモチベーションとして優先されることが多い。だからこそ、たとえば睡眠不足の状況になると、生存のための睡眠が優先され、高次機能を発動させることが非常に難しい状態になる。呼吸や体温が乱れていると、学習や仕事のモチベーションどころではないのである。したがって、脳幹や間脳などでつかさどる機能のコンディションを整えておくことが、学習系や高次脳処理機能系のモチベーションを引き出すためには重要となる。



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