『できる社長は、「これ」しかやらない 伸びる会社をつくる「リーダーの条件」』
[著]小宮一慶
[発行]PHP研究所
経営とは「方向づけ」「資源の最適配分」「人を動かす」
最初に「社長がやるべき仕事とは何か」を確認します。
シンプルに言えば、実は3つだけなのです。
「経営の本質」を一言で説明できますか?
「はじめに」で、経営者が「絶対にやらなければいけない仕事」の重要性を述べました。具体的に整理すると、次の3つに絞り込むことができます。
1.方向づけ
2.資源の最適配分
3.人を動かす
1の「方向づけ」とは、「何をやるか、やらないか」を決断して方向性を示すこと。
2の「資源の最適配分」とは、ヒト・モノ・カネといった会社の有する資源を、適正に配分して成果を上げられるようにすること。
3の「人を動かす」とは、資源のなかでも最も重要な、人材の活かし方です。
社長が何を言い、何をすれば、社員が生き生きと働き、パフォーマンスを上げていけるか。それを考え、実行する。この3つが、経営の最も本質的な要素です。
この3つに関して、「正しい努力」を積み重ねていくのが社長の仕事なのです。
もちろん、中小企業の場合、社長はこれらの仕事だけをやっているわけにはいきません。しかし、部下が経営の仕事をやってくれるわけでもありません。社長が自ら経営の本質に関わる仕事をすることが、会社を発展させるためには、ぜひとも必要なのです。
「方向づけ」が社長の仕事の8割
なかでも、方向づけ、「何をやるか、やらないか」を決めることこそ、社長がやらなければいけない仕事の第一です。社長の仕事の8割は、この「方向づけ」だと言えます。
方向づけとは、言い換えれば「戦略」です。
現在のように経済環境が激変し、先が読みにくい時代には、どういう戦略で独自性を出していくかということが、経営を大きく左右します。
外部環境の変化や、同業他社と比べての自社の強みなどを認識したうえで、他社と差別化を図り、業績を上げるために、「何をやるか」「何をやめるか」の判断をする。
これは社長でなければできないことです。
方向づけを間違ってしまうと、企業はどうなるか。
資源も問題なく配分され、人も前向きに動く態勢が整っているなかで、間違った方向に向かってみんなが頑張ったら、崖っぷちに早く到達するだけです。
うまくいかない会社というのは、たいてい方向づけの間違いが原因です。
危機に瀕している会社も、社員はみんな、目の前の仕事に頑張っているのです。しかし、方向づけに関して何度かあったはずの修正ポイントで、社長が正しい進行方向へと舵を切り直せないから、沈没してしまうわけです。
正しい方向づけには、「知恵」がものを言う
適切に方向づけをしていくために必要なのは、「知恵」です。
方向づけをする際、まず判断の根幹となるのは、会社の存在意義(ミッション)や将来構想(ビジョン)、行動規範(ウェイ)などの理念に合っているか、ということです。
そこに、外部環境や内部環境の分析結果を加味して、具体的な戦略を構築していくわけですが、それには適切な判断材料が必要です。
幅広く正確な知識や情報を収集していれば、それだけ判断の精度が高くなりますが、それは普段からの習慣や思考パターンがものを言います。。
さらに言えば、ものの考え方の基軸となる思想、哲学を持っていれば、決断にブレが生じにくくなり、正しい判断を速やかにできるようになります。
例えば、ファーストリテイリングの代表取締役会長・社長の柳井正さんは、経営判断に当たってはドラッカーの教えに基づいて考える、と公言しています。
ドラッカーの考え方を経営の基軸としている経営者は多いですが、ベースにしっかりとした考え方を持つことで、方向づけの正確性を増すことができます。
優秀な経営者は、勉強熱心です。自分の経営判断のバックボーンが充実すればするほど、方向づけの間違いがなくなることをよく分かっているからだと思います。だから、どんなに忙しくても、経営に必要な知恵を身につける姿勢をおろそかにしないのです。
残念な社長は、目先の「やっている感」に満足している
「方向づけ」「資源の最適配分」「人を動かす」──。
もし社長が、この3つの仕事をやらない会社はどうなるか。
以前、ある大企業の会議に出て、驚いたことがありました。社長がある子会社の一つの店舗の「椅子の足を何にするか」という話に一生懸命になっていたのです。
その社長はオーナー経営者で、絶対的な権力を持っていました。細かいことも口うるさいので、後で「お叱り」を受けないようにと、部下たちは何から何まで逐一お伺いを立てていたのです。
この手のことは分かりやすい話で、「やっている感」があります。社長本人も、「俺がいると、いろいろすぐ決まるだろう」という顔で、喜々としてやっているのです。
中小・零細企業では社長が何でもやらないといけないということはありますが、会社の規模がここまで大きくなっていながら、まだこんなことをやっているのか、とこの会社の今後が心配になりました。
私はそのとき、一倉定先生のこの言葉を思い出しました。
「ダメな会社というのは、社長が部長の仕事をし、部長が課長の仕事をし、課長は係長の仕事をし、係長は平社員の仕事をしている。平社員は何をしているかというと、会社の将来を憂いている」
社長が自分のやるべき仕事をせずに、現場に細かく介入してしまうと、本来ならそれぞれの裁量で決め、報告だけ上げればいいようなことが、思うように進められません。すると、その下の部長たちも自分で考えなくなり、忖度ばかりするようになります。実際に現場で仕事をする社員の立場からすると、将来が嘆かわしくなるわけです。
つまり、社長が社長の仕事をしていないと、部下も立場に応じた仕事ができません。だからこそ社長は、社長の仕事=「経営」を行わなければいけないのです。
それぞれが立場に応じた仕事のできる会社にするためには、トップが自分のすべき仕事に集中し、部下に任せられる部分は任せる姿勢を示さなくてはいけません。
賢い社長は、余計なことにムダな労力をかけません。それは社長自身のためにも、社員のためにもならないことをよく分かっているからでもあるのです。
「方向づけ」「資源の最適配分」「人を動かす」のそれぞれについては、第2章以降で個別に詳しく説明していきます。
Point
社長は社長の仕事をする。