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美とリベラルアーツ 美意識を高め、創造性を育む
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生き方・教養
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はじめに 氷姫

『美とリベラルアーツ 美意識を高め、創造性を育む』
[著]阿部博人 [発行]PHP研究所


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もしも―

シェイクスピアがいなかったら

文学博士になりそこなった

英文学者がずいぶん出ただろう(井上ひさし『天保十二年のシェイクスピア』)



 ストラヴィンスキーはアンデルセンの本のページをめくっていて、すっかり忘れていたけれども、実現したかったアイデアに、うってつけな短編を見つけました。『氷姫』です。『氷姫』からストラヴィンスキーのバレエ作品で、管弦楽組曲にも編成された《妖精の接吻》が生まれました。(注一)


 もしも、アンデルセンが『氷姫』を執筆しなかったら、ストラヴィンスキーの《妖精の接吻》も、トーヴェ・ヤンソンの『ムーミン谷の冬』も、カミラ・レックバリの『氷姫、エリカ&パトリック事件簿』も、ウォルト・ディズニーの『アナと雪の女王』(第二作もアンデルセンの『雪の女王』からもアイデアを得たと言われています)もなかったでしょう。


 創造性とは、無から有が創られるのではなく、過去の創造性からのインスピレーションです。「記憶の絵」を受け取り、現在を照らすのは、感性です。感性は理性に培われ、自然や美に触発されます。理性は論理を尽くして、根拠や証拠に基づく思考によって身につきます。


 そして、多元的な物事の見方を可能にするのが、リベラルアーツです。リベラルアーツはただ知り経験するだけではなく、思考と対話によって、問いを問い直し、最適解を見出し、社会によりよい合意を形成して行くためのものです。


 シラーは「美は私たちが観察するものゆえに形式であり、同時に美は、私たちが感ずるものゆえに生命なのです」と説き、「美は、私たちの状態であると同時に私たちの行為なのです」と語ります。(注二)


 美は感性と理性の対象ですが、感性と理性を仲介し、私たちを真へと導き、善へと促します。創造性とともに美が、リベラルアーツを考える身近な視点となります。本書の構成は次の通りです。


 第一章では、理性、感性、美、芸術についての要点を整理します。これら認識と価値の問題は哲学や美学で論じられてきましたが、近年、神経科学が大きな貢献をしています。


 第二章では、シェイクスピアと『ハムレット』から、人間について考えます。『ハムレット』は『ロミオとジュリエット』とともに、最も親しまれているシェイクスピア作品ですが、話の筋と登場人物を理解し、一つひとつの言葉を注意深く読み解いていくと、その難解さの先に、人間を映す鏡が見えてきます。


 第三章は、お金と経済について、『ヴェニスの商人』とゲーテの思索から論じます。文学・芸術と経済学は一見すると無関係に思われますが、経済の本質をシェイクスピアとゲーテは見事にとらえ、貨幣は芸術にもなっています。


 第四章は、前章に続いて、『ファウスト』のあらすじをたどり、悲劇と美と救済について考えます。舞台はファウストの書斎から、にぎわう街の通り、皇帝の居城、ギリシャ神話の世界へと、悪魔のメフィストとともに、時間と空間を大きく移動し、フィナーレはマーラーの交響曲第八番となります。


 第五章は、今年生誕二五〇年を迎えるベートーヴェンを中心に、音楽の魅力と意義を取り上げます。ベートーヴェンの《第九》やピアノ・ソナタとピアノ協奏曲を聴きながら、ベートーヴェンの苦悩と革命に思いを寄せれば、なお一層、クラシック音楽への親しみが増すのではないでしょうか。


 第六章は、マネを中心に、マグリット、ゴッホ、クレー、マルセル・デュシャン、葛飾北斎の作品を鑑賞します。これら芸術家とその作品は創造性について多くを示唆し、鑑賞者のあり方も考えさせます。


 第七章は、日本の美意識を『源氏物語』に求め、いくつかの名高い場面が描く心理と情景を取り上げます。紫式部はこの長大な物語で、その構想力と筆力をいかんなく発揮し、恋愛の成就と不条理、美について、現代の私たちに問いかけています。


 第八章は、第七章までのまとめとして、リベラルアーツ思考を提唱します。とらわれない自由な発想、創造性、美意識、教養が人生と社会を豊かにします。


 各章で取り上げた文学、芸術、音楽はいずれも素晴らしい人類の美的遺産であり、その要旨を紹介するに過ぎませんが、本書がこれら作品に親しむ契機となって、読者の美意識と創造性が高まり、そして、よりよい社会となるための一助となれば、幸いです。


二〇二〇年四月十六日 阿部博人


注一. ストラヴィンスキー『私の人生の年代記』未来社、一七〇頁

注二. フリードリヒ・フォン・シラー『人間の美的教育について』法政大学出版会、一五頁

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