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美とリベラルアーツ 美意識を高め、創造性を育む
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生き方・教養
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第五章 音楽美学 革命家ベートーヴェン

『美とリベラルアーツ 美意識を高め、創造性を育む』
[著]阿部博人 [発行]PHP研究所


読了目安時間:32分
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 プラトンは青少年教育の理想に関して、肉体にとって体育が重要であるのと同様に、音楽は魂にとって重要と唱え、アリストテレスは音楽による情緒の浄化を説きました。論語には、「子曰く、詩に興り、礼に立ち、楽に成る」(泰伯第八)とあります。


 シェイクスピアは『ヴェニスの商人』(第五幕第一場)で、音楽の意義を次のように説いています。


どれほど鈍く、堅く、凶暴なものも/音楽を聴いているときだけは性質が変わる。/心に音楽を持たない人間、/美しい調べにも心を動かされない人間は/謀反、陰謀、略奪にしか向いていない。/そういう人間の心の動きは闇夜のように鈍く、/感情はこの世と地獄の境のように暗い。/そういう人間を信用してはいけない。お聴き、あの音楽。注一)



 ロミオはジュリエットの声を「銀の鈴のように甘い」「豊かな音楽」と言い、オフィーリアはハムレットの「誓いの調べという甘い蜜を味わった」ため悲しい運命をたどり、狂乱の場で可憐な声で歌い、水底に歌いながら沈んでいきました。『オセロー』で、イアゴーはオセローとデズデモーナーの抱擁を見て、傍白で「ああ、調子が合っているな、いまのところは。/だが(げん)をゆるめてその音色を狂わせてやる」と声を(ひそ)めます。オセローもイアゴーも音楽には縁遠く、一方、デズデモーナーは音楽を好み、美しく、知性的です。デズデモーナーは報われない恋の象徴である柳の歌を無心に歌いオセローを待ち、デズデモーナーを支えたエミリアも柳の歌を歌いながら死んでいきます。


 このように、シェイクスピアは愛や悲しみを音楽に喩え、歌や踊りの場面が描かれ、効果音としても音楽を多用しています。


 シェイクスピアの単独作としては最後の作品『テンペスト』で、妖精のエアリエルが歌い、太鼓と笛を奏でます。悪者とされる怪物キャリバンですが、心から音楽を愛しています。



 怖がらなくていい。この島はいろんな音や/いい音色や歌でいっぱいなんだ、楽しいだけで害はない。/ときには、何千もの楽器の糸を(はじ)くような調べが/耳元に響く。ときには歌声が聞こえてきて、/ぐっすり眠ったあとでも/また眠くなったりする。そのまま夢を見ると、/雲の切れ間から宝物がのぞいて/俺のうえに降ってきそうになる、そこで目が覚めたときは/夢の続きが見たくて泣いたもんだ。(第一幕第一場)



 魔術で勝ったプロスペローは、かつてこの離島へ迫害した政敵に、語りかけます。「この荒々しい魔術は/この場で捨てる。このうえは天に音楽を/奏でさせ──いまそれを行うつもりだが──/楽の音の妙なる力で、私のもくろみどおり/みなを正気に戻したあかつきには、魔法の杖を折り、/地の底深く(うず)め、/測量の(おもり)も届かぬ深みに/私の書物も沈めてしまおう。」(第五幕第一場)


 そして、荘厳な音楽が聞こえてきて、エアリエルが登場し、かつてプロスペローを追いやった狂乱のナポリ王アロンゾーらに「厳かな調べは何よりの慰め、/乱れた心を鎮め、お前の脳髄をいやしてくれよう」と続けます。

『テンペスト』が描くのは「嵐」であり、テーマはミラノ公国君主の座を簒奪した弟らへのプロスペローによる復讐と赦しです。まさに嵐のように展開する戯曲ですが、美しい音楽が全編を通じて奏でられ、美しい詩が歌われます。


 ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第一七番は《テンペスト》の通称で知られますが、弟子のシンドラーがこの第一七番と第二三番(熱情)の解釈について尋ねると、「シェイクピアの『テンペスト』を読め」と言われたことに由来します。


 チャイコフスキーはシェイクスピアを敬愛し、幻想序曲《ロミオとジュリエット》に続き、同じく《テンペスト》、そして《ハムレット》を作曲しています。また、シベリウスは『テンペスト』への付随音楽を作曲しています。ボブ・ディランに『テンペスト』というアルバムがありますが、彼はシェイクスピアの『テンペスト』には The がつくが自身のにはつかず、ラストアルバムではないと語っています。収録の曲に《テンペスト》がありますが、タイタニック号遭難の悲劇が一四分にわたって歌われます。

《イエスタディ》は曲の素晴らしさと美しいストリングスで、ビートルズのアーティストとしての評価を高め、ギネスブックで世界で最もカバーされた曲として認定されています。ポール・マッカートニーの作詞・作曲ですが、ジョン・レノンとのクレジットになっています。ポールが屋根裏部屋のベッドで、ひとり寝ていた夜のことです。あるメロディーが夢に出てきました。夢から覚めたとき、そのメロディーが頭の中であまりに完璧に出来上がっていたため、オリジナルなものとは信じられませんでした。タイトルや歌詞を忘れてしまった有名な曲を、無意識に盗んだに違いないと思ったほどです。ジョン、ジョージ、リンゴ、プロデューサーのジョージ・マーティンらに聴かせると、誰も聴いたことがありませんでした。(注二)


 ギルドホール音楽演劇学校でクラシックを学んだジョージ・マーティンは五人目のビートルズと称され、ビートルズを見出し育てた名プロデューサーです。ビートルズのクラシック音楽的アプローチやオーケストレーション、複雑なサウンド・エフェクトや曲のアレンジで大きく貢献しました。ジョージ・マーティンはこの曲に弦楽四重奏をアレンジすることを提案しましたが、ポールは反対です。一晩考えてみてはどうかと促し、翌日、ポールは賛同したとのことです。アビイ・ロードのB面(当時のLPレコード)のクラシック風の組曲のアレンジもジョージ・マーティンの提案です。ビートルズ、ポール・マッカートニーという優れた音楽家であっても、プロデューサーの力に負うところが大きいとわかります。


 ビートルズの弦楽四重奏曲と言えば、やはりポール作の《エリナー・リグビー》がまた高く評価されています。

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