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美とリベラルアーツ 美意識を高め、創造性を育む
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生き方・教養
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第七章 源氏物語 日本の美意識

『美とリベラルアーツ 美意識を高め、創造性を育む』
[著]阿部博人 [発行]PHP研究所


読了目安時間:29分
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 美にふれて、美を考えるには、世界に誇る日本の文学作品があります。源氏物語です。愛別離苦の人間の心理と季節や花をはじめとする情景が描かれ、絵画や音楽が論じられ、その美は源氏物語絵巻で観ることができます。


 紫式部(生年は九七〇~九七八、没年は一〇一九~一〇三一とされ諸説あります)はシェイクスピア(一五六四~一六一六)が活躍する五百年ほども前の人です。源氏物語とシェイクスピア作品との違いの一つは、源氏物語の作者は女性である点です。女性の視点によって、恋愛と人生が描かれました。


 シェイクスピア作品は演劇であり(『ソネット集』という詩編もあります)、源氏物語は壮大な物語で、語彙は四十万語にも及ぶ長文です(『紫式部集』という和歌集もあります)。キリスト教と仏教・儒教という社会と作品のベースとなる宗教も大きく違います。作品の最大の違いは、源氏物語には殺人がない(悪人もいない)ということです。


 源氏物語は二十か国以上に翻訳されていますが、一九二〇年代のアーサー・ウェイリーの英訳で広く西洋に知られるようになり、ドナルド・キーンはこのウェイリー版源氏物語を読んで日本文学に関心を寄せ生涯を捧げることになりました。


 源氏物語は一人の天才作家によるものとされる一方、作者複数説もあります。「(きり)(つぼ)」と「(ははき)()」の間に源氏と藤壺のことを書いた「かかやく(輝く)日の宮」という巻があったのではないか。各巻がどのような順番で書かれたのか。「(にほう)(ひよう)()(きよう)(匂宮)」、「(こう)(ばい)」、「(たけ)(かわ)」の三つの巻は後世の人の補作か。宇治十帖は別人が書いたものか。源氏物語は謎解きですが、その成立自体がミステリーで、このような問題も源氏物語の魅力となっています。


 源氏物語は五十四帖からなり、第一部が「桐壺」から「(ふじの)(うら)()」までの三十三帖、第二部が「(わか)()」から「(まぼろし)」までの八帖、第三部が「匂兵部卿」から「(ゆめの)(うき)(はし)」までの十三帖と区分されます。第一部は天皇の子として生まれ臣籍降下した光源氏の数多くの女性との恋愛遍歴、政争と須磨流謫、そして復権と栄華の頂点を描きます。


 第二部は源氏の壮年から晩年にかけてで、栄華の表舞台からは降りるように、恋愛にもかつてのような華やかさはありません。その中で、「若菜」上・下は源氏物語の中で傑作中の傑作と評されています。朱雀院の娘女三の宮が降嫁し、源氏の正妻となります。東宮に入内した明石の女御が男子を生み、父である明石の入道の年来の宿願が達せられます。御息所の死霊が現れ、紫の上の危篤と蘇生が描かれます。柏木と女三の宮が密通し、源氏と柏木と女三の宮が三様に苦悶します。女三の宮は出家し、悲運の柏木は生涯を終えます。


 第三部は仏教的世界観に基づく、源氏亡き後の物語です。薫(源氏と女三の宮の男子ですが、実は柏木の子)と匂宮(今上帝の第三王子)が、宇治の大君と中の君そして浮舟を翻弄します。


 第三部のうち第四十五帖「橋姫」以降は、宇治を舞台とした宇治十帖と呼ばれています。源氏の死は語られてはいませんが、出家し嵯峨野で数年暮らした後、題名だけの何もない「雲隠」の帖が置かれ、源氏がその生涯を終えていることが示唆されます。そして、八年を経て「匂兵部卿」となります。「匂兵部卿」は「光隠れたまひし(のち)」(源氏の光る君がこの世から隠れておしまいになった後)と、ここから先は、光がなくなった、闇の世の物語であると始まります。宇治十帖のはじめの「橋姫」は「そのころ、世に数まへられたまはぬ古宮おはしけり」(そのころ、世間からわすれられていらっしゃる古宮がおありでした)という書き出しで、新たな物語が始まることを告げています。依然、光のない闇の世です。恋愛は成就せず、男と女はすれ違い、わかりあえません。


 シェイクスピアの作品で時が論じられ、ファウストでは時が場面を動かしました。源氏物語が綴るのは時の移ろいです。時間は空間と違い、認識できません。今、この一瞬があるだけです。過去は時間として記述できます。これからの時間は予感、予定することはできます。「幻」の巻で源氏の五十二歳の一年間が描かれ、何もない「雲隠」の次の「匂宮」まで八年間の空白です。「匂宮」では、薫が十四歳から二十歳までのできごとが描かれます。


 本章では小学館の新編日本古典文学全集の源氏物語の原文と現代語訳を引用し、頭注を参考に、源氏物語の特に知られる主な場面や和歌を紹介します。


いづれの(おほむ)(とき)にか、(によう)()(かう)()あまたさぶらひたまける(なか)に、いとやむごとなき(きは)にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。

(みかど)はどなたの()()であったか、女御や更衣が大勢お仕えしておられた中に、最高の身分とはいえぬお方で、格別に帝のご(ちよう)(あい)をこうむっていらっしゃるお方があった。


「いづれの御時にか」という一句から長い物語が始まります。帝が身分のさして高くない更衣を溺愛し、その桐壺の更衣が意に反して周囲の女御の恨みをかってしまいます。

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