読みたいトコだけ買える本。
犬耳書店
初めての方へ 記事一覧 無料登録 ログイン
0
-2
kiji
0
0
1302017
0
美とリベラルアーツ 美意識を高め、創造性を育む
2
0
0
0
0
0
0
生き方・教養
お気に入りとは?

お気に入りボタンを押すとお気に入りリストにこのページが追加されます。興味のあるページ・気になったページを後から確認するのに便利です。

お気に入り お気に入り
第八章 リベラルアーツ思考 美と創造性

『美とリベラルアーツ 美意識を高め、創造性を育む』
[著]阿部博人 [発行]PHP研究所


読了目安時間:27分
この記事が役に立った
0
| |
文字サイズ


 人は危険が急に迫ると、とっさに逃げたり、身をかわしたりします。そのようなときは、どのように危険を避けるか、考えて、行動したのではなく、多くの人は無我夢中で、そのときのことをよく覚えてはいないと思います。無意識の行動は、何によって、どのようになされるのでしょうか。


 ステファン・W・ポージェスは、私たちが体験する生理学的な状態は意識して選択しているのではなく、神経系が無意識のレベルで環境の中にあるリスクを評価していると説き、「ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)」を提唱しています。(注一)この理論では、危険と脅威が生理的状態を変化させ、防衛に向かわせる適応的行動をとるため、自律神経が機能します。他者の感情を感じることができる能力も、神経生理機能に基づきます。身体と脳、身体と心理作用の間は神経生物学的につながっています。ポージェスによれば、デカルトは身体感覚を認知機能に服従させることを強調し、身体感覚の重要性を片隅に追いやってしまいました。認知機能にばかり焦点を当て、認知と身体的体験との統合がなされていません。身体感覚は個人的な体験です。心身二元論ではなく、やはり「我は自分自身を感じる、ゆえに我あり」となります。


 近年、「ソマティック」という言葉が注目されています。「ソマティック」とは身体的という意味で、身体が心に及ぼす作用が心理学で研究され、トラウマ療法で用いられるようになりました。


 困難な状況や悲しみでネガティブな感情になったときに、その感情を認識し、より適応的な状態にしていくのが、感情調整で、感情調節とも言われます。感情の表出を抑える抑制は、健康に悪影響を与えます。苦境やネガティブに見える出来事に対して、考え方を変え、ポジティブな側面を見出し、否定的な感情を感じないようにするのが、認知的再評価であり、理性による感情調整です。


 一方、自分自身で身近に取り組めるのが、ネガティブな出来事と無関係なことに取り組む気晴らしや気分転換です。体感・五感から感情を調節し、否定的な感情をポジティブに変える方法です。視覚では美しい風景を見る、聴覚では川のせせらぎや好きな音楽を聴く、味覚ではおいしいものを食べる、触覚では犬や猫などペットをなでる/愛する人と手をつなぐ、臭覚ではアロマやお香をかぐことなどがあげられます。運動や手芸・園芸などの手作業も効果的です。


 気晴らしや気分転換は思考によるのではなく、体感・五感に基づきます。体感・五感が感情を変化させ、精神的な健康度を高め、協調性や情緒の安定によい効果が得られます。


 神経生理学的に論じられるポリヴェーガル理論やソマティックな経験や感情調整は、トップダウン型の心身分離ではなく、ボトムアップ型の心身統合論とも言えるものです。


 ロバートとミシェルの二人のルートバーンスタインは、モーツァルトなどの音楽家、ゲーテなどの作家、ピカソなどの芸術家、アインシュタインなどの科学者の「天才」のひらめきについてさまざまな角度から分析し、音楽(聴覚)と絵画(視覚)、文学(詩や小説)と芸術(視覚)、音楽(聴覚)と科学、数学と美術の相互関係性、体感的思考などについて論じています。(注二)


 特に著名な科学者たちについて、創造的思考は直観によって得られ、感覚・感情と知性が融合することで、想像力が生み出されると語っています。教育については、ペスタロッチが視覚的な理解を他の形態の教育よりも優先させ、非言語的・非数学的な思考形態で教え、アインシュタインがその教育原理で学んだことを明らかにしています。また、フレーベルはペスタロッチの弟子ですが、フランク・ロイド・ライトやカンジンスキーが、フレーベルのブロック・セットで遊ぶことを好んだとしています。


 そして、創造的想像という段階では、分野が違っても、同様に思考していると指摘し、「身体と精神、感覚と感受性を結び付けた総合的な理解のこと」を「サイノシア」(synosia)と名づけます。両ルートバーンスタインはこのように、「新しいものを生み出す人々の心と知性を探ることで、思考手段の訓練とサイノシア(融合、統合)的な思考を求める欲求が、さらなる想像力の訓練と発達につながることを実証した」と述べています。


 このような「サイノシア」で、誰しも創造的思考が可能になるというのは、大いに勇気づけられます。


 課題の解決において、考えることは当然のことではありますが、考えない、考えないということに耐えること、状況のままにあることも、人間のあるべき姿と言えるかもしれません。キーツはシェイクピアについて、次のように語っています。



 シェイクスピアが多量にもっていた性質──私が消極能力(ネガティブ・ケイパビリティnegative capability)という性質のことです。この消極能力というのは、人が、事実や理性などをいらだたしく追及しないで、不確定、神秘、疑惑の状態にとどまっていられるときを言うのです。

この記事は役に立ちましたか?

役に立った
0
残り:11290文字/本文:13362文字
この記事を買った人はこれも買っています
      この記事を収録している本
      この本で最も売れている記事
      レビューを書くレビューを書く

      レビューを書いてポイントゲット!【詳細はこちら】

      この本の目次