『元ルイ・ヴィトン顧客保有数No.1 トップ販売員の接客術(大和出版)』
[著]土井美和
[発行]PHP研究所
入社当時、私は悩んでいました。
お客様からは「良い買い物ができた」という言葉をかけていただき、ご満足いただけていると思っていたのに、自分宛の再来店には繋がらないのです。
研修で学んだ通りの「良い接客をしている」という自負があっただけに、なぜリピートされないのか、その理由がわからず、とにかくお礼状を書き続けていました。
先輩にこんなにお礼状を書いているのになぜ顧客ができないのかと相談すると、「何百枚書いてようやく一人戻ってきてくれる感じだよ」と言われ愕然としたのを覚えています。それから私は、これまで以上に一生懸命お礼状を書きましたが、リピート顧客が増えることはありませんでした。
いま思うのは「あるべき接客」は1から10まで教わりましたが、「リピート顧客の作り方」は一度も教えてもらったことはないので、悩むのも当然だということです。
学生時代から飲食など接客業のアルバイトを経験し、お客様と接することが大好きだった私は、大学卒業後も「接客業を極めたい」という思いで、ルイ・ヴィトンへ入社しました。
約80名の同期は素敵な人ばかりで眩しくて、「なんて場違いなところにきてしまったのだろう」と気後れしつつも、1ヵ月の研修の中で、身だしなみ、メイク、話し方、所作、ブランドの歴史、商品知識、アフターケアなど、とにかくありとあらゆるマナーや知識を学びました。
ルイ・ヴィトンには、世界中のスタッフが同じ基準で店頭(ON STAGE)に立てるように、髪色や髪型、ネイルカラー、制服の組み合わせなど事細かに指定された「ON STAGE」というガイドラインがありました。私はこのような制服に身を包み、華やかな店舗で働けることが嬉しくて仕方なかったのです。
しかし、当時教わってきた「丁寧な接客」「礼儀正しい接客」は、販売員としての「あるべき接客」であり、私は同じ制服に身を包んだ他の販売員との違いもわからないような、言ってしまえば自動販売機のような接客をしていたのだと思います。
「リピート顧客ができない」という悩みを持つ人はたくさんいますが、皆さんに共通しているのが、「良い接客だけど、その人の印象は残らない」ということです。
ここで言う「良い接客」は必ずしも「またあなたに会いたい」と思える接客とイコールではないのです。
たとえ販売員の模範となるような接客ができていなかったとしても、「なんかあの人すごくおもしろかった」「なんかすごく楽しい時間だった」と感じていただけることが、お客様にとってはずっと印象に残り「またあの人に会いたい」と思っていただけることだったりするのです。
この悩みには、年齢や経験年数など関係ありません。
たくさんの知識があるのにリピート顧客ができずに悩む人もいる一方で、新人で知識が全くない人に自然とリピート顧客ができるなんてことは、よくあります。
私は新人時代のように多くのお礼状を書かなくても、2012年以降ルイ・ヴィトンにおいてトップの顧客保有数を維持することができました。振り返ると、あのときに費やした時間と労力はもっと別の使い方ができたのではないかと思います。
あくまでも私はこのような経験をしてきて、いまそのことに気づいたということですが、誰もが同じように苦労する必要はないと思っています。
ですので、本書を手にとってくださったあなたには、私が19年間で顧客作りのスペシャリストとなったノウハウを全てお伝えしていきたいと思います。
POINT
印象が薄ければ、どれだけお礼状を書いても意味がない