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最強メンタルをつくる前頭葉トレーニング
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人文・科学
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はじめに

『最強メンタルをつくる前頭葉トレーニング』
[著]茂木健一郎 [発行]PHP研究所


読了目安時間:8分
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 二〇二〇年は、本来なら二度目の東京オリンピック・パラリンピックで日本中が沸いていたはずでした。しかし、新型コロナウイルスという予想外の脅威を前に、私たちが思い描いていた未来は崩れ去りました。


 ほとんどの人が初めて経験する「パンデミック(世界的感染爆発)」に、世界中の経済、政治、人々の生活はとん挫し、いまだに先の見えない(こん)(とん)(おちい)っています。


 順調に物事が進んでいると信じていた現実が、あっけなく崩れ去る驚き。


 だけど、人生というのは本来そういうものであったのかもしれません。どんなに努力しても、自然災害や戦争やテロ事件などで、私たちの生活はいつでも一転し得るからです。そのことを二〇一一年の東日本大震災で私たちは大いに思い知ったはずなのに、のど元過ぎればなんとやら、再び忘れ去っていたようです。


 しかし、予期せぬ事態に直面した時こそ、私たち人間の脳の出番です。


 状況を判断する力、未来を予測する能力、あらゆる選択肢から最良だと思える策を選び、意思決定し、行動に移す力。それらは、脳の司令塔と呼ばれる前頭葉の働きです。



 私は本書で、「メンタルモンスター」という概念を提唱したいと思っています。

「モンスター」などと聞くと、一瞬驚かれるかもしれません。モンスターという言葉は、「モンスターペアレント」などのように、悪い事象に対して使われることが多いですから。しかし、ここでは反対の意味で使います。ストレスに打ち勝つモンスターを、脳内に育てようという意味であえて使っています。それは、まさしく最強のメンタルです。


 自然災害、戦争、テロ、パンデミック。あるいは日常でも仕事のストレス、家庭のいざこざ、友人関係の難しさ。大小さまざまなストレスが、私たちの身の回りには存在します。でも、そのストレスに打ちのめされてしまう人と、むしろピンチをチャンスに変えて、新たに立ちあがり、新しいステージに昇れる人がいます。


 その違いはどこにあるのでしょう。


 本書では、その違いを解き明かしながら、困難な時に、人生を切り(ひら)くことができる人間の脳の素晴らしさを紹介していきたいと思っています。


 一九九〇年代後半にベストセラーになった『チーズはどこへ消えた?』(スペンサー・ジョンソン著、扶桑社)という本があります。ネズミと好物のチーズの関係を(ぐう)()的に描いたこの物語では、これまでそこにあったはずの場所から、ある日突然チーズが消えてしまいます。ネズミたちはすぐさま新しいチーズを探しに旅に出ますが、知恵の回る小人たちはチーズが戻ってくるかもしれないと期待して動こうとしません。


 この物語でチーズは、人生における「大切なもの」「追い求めるもの」のシンボルとして描かれています。


 本の出版から約二十年。チーズは当時よりも速いスピードで私たちの前から消えてなくなっています。情報媒体を例にとっても、紙の本は売れなくなり、新聞の購読者数もテレビの視聴率も一気に下がりました。ブログよりも、むしろ今はYouTube、あるいはもっと短時間のTikTokがもてはやされています。


 科学技術の(えい)()(せい)(すい)をはじめ、私たちの世界はかつてないスピードで目まぐるしく変化しており、そこでは現状に踏みとどまるのではなく、常に新しいことにチャレンジしていけるメンタルが、より大切になってきています。


 今、世の中で活躍している「成功者」たちを眺めてみてください。彼らは皆、必然性と運命に導かれて現在の地位にたどり着いたのでしょうか。私は違うと思います。サクセスストーリーはあくまで後付けの物語にすぎません。


 彼らのスタート地点は、ほとんどが「そんなの成功するわけがない」と、多くの人にバカにされながら始まったはずです。


 成功の保証があるならば、誰だって努力は(いと)いません。


 その保証がないから、多くの人は(ちゆう)(ちよ)するのです。


 英語圏には「最初のペンギンfirst penguin)」という言葉があります。


 通常、ペンギンは氷雪の上に住んでいますが、そこには(えさ)になるようなものは何もないため、海に飛び込んで餌をとらなくてはなりません。


 しかし、海の中にはオットセイやトド、シャチなどペンギンを捕食する敵がウヨウヨいます。思い切り飛び込んでしまったら、自分自身が餌になってしまう危険性は十分に考えられます。

「できれば自分より前に、他のペンギンに海に飛び込んでもらいたい」


 そう考えているかのように、たくさんのペンギンたちがウロウロと氷の上で躊躇している姿を見ることができます。


 そんな中、一匹のペンギンが意を決して海に飛び込みます。次々に、その後に続いて飛び込んでいくペンギンたち……。


 そう、「最初のペンギン」とは、うまくいくかどうかわからない状況でも、勇気を持って不確実性の海に飛び込む人のことを指すのです。


 新しいことに挑戦するのは誰にとっても不安です。


 しかし、一見安泰のように見えるあなたの立場も、本当に安全といえるのでしょうか?


 同じ場所に留まり続けることの危険性、勇気がないばかりに飢え死にしてしまうペンギンに、もしかしたらなりかけているかもしれません。


 私が脳科学を始めた頃、脳科学は今よりももっと世間的な地位が低いものでした。


 物理学科の研究室の仲間たちからは、散々に言われたものです。

「脳科学なんてよくわからない分野はやらないほうがいい」と。


 物理学という伝統ある学問をしている人たちから見たら、当時の脳科学は「海の物とも山の物ともわからない」()(たい)の知れない学問領域だったのです。


 それでも私は、脳と心の問題に強い興味を持っていました。どうしてもやらずにはいられなかった。


 先が見えないまま歩み始めた道でしたが、次第に学問領域として認められ、しかも、いつの間にやら脳科学ブームまで起きました。「好き」「興味がある」という純粋な好奇心が、将来の仕事に結びついたのです。



 ホラー映画で一番怖い瞬間は、幽霊やモンスターが出てくる直前ではないでしょうか。「何か出てくるぞ、出てくるぞ」という、あの瞬間が一番怖い。しかし、いざその正体がわかると「あれ、思っていたより怖くないな」と拍子抜けしてしまうことも多いのです。


 正体がわからないうちは、大したことのない存在でも大きく異様に思えるものです。


 それでも人間は、恐怖よりも好奇心が先に立つ能力も秘めています。


 十五世紀半ばには、あるかどうかもわからない「新大陸」を目指し、大勢の男たちが大規模な航海に乗り出しました。日本の幕末期にも、危険を(かえり)みず、溢れ出す好奇心に導かれて未知との遭遇に踏み出した人々がたくさんいました。坂本龍馬はペリー率いる黒船を見に、わざわざ浦賀沖まで行き、後に「(しよう)()村塾」を主宰した吉田(しよう)(いん)は、ペリーが日米和親条約締結のために再航した際には、仲間と二人で小舟に乗って黒船に潜入し密航しようとしました。リスクと可能性を(てん)(びん)にかけた結果、彼らは可能性のほうに賭けたのです。


 一般的には、時代の調子が上向いている時は、人間の好奇心が不安や恐怖心より(まさ)ります。高度経済成長期からバブル期は、日本中が根拠のない自信と、あくなき好奇心で燃え盛っている時代でした。子どもだった私も、テレビを観ながら人々のエネルギーに熱狂していたものです。


 しかし、その後の日本経済の停滞と共に、時代精神や人々のメンタルも落ち込んでいったように思えます。そんな時代には、どうしても不安のほうが勝ってしまうのです。


 そんな不安を打ち破りストレスに打ち勝つ最強のメンタルを、皆さんに身につけていただきたいと思っています。


 ある不運に遭遇しても、ポッキリと心が折れてしまうのではなく、しなやかに立ち上がれる力を持つ人物。それが「メンタルモンスター」です。


 メンタルモンスターになるためには、脳を変えることが必要です。そのためにタフな脳をつくることに貢献している「前頭葉」を(きた)えるのです。


 前頭葉は、判断力・予測する能力・意思決定・行動力を(つかさど)ります。脳の司令塔ともいわれ、いわば「人生の社長」のような役割を担っているのです。


 本書では主に、メンタルモンスターになるための四箇条をご紹介します。



 其の一、前頭葉の強化


 其の二、ネガティブ思考に負けない身体づくり


 其の三、メンタル免疫力の強化


 其の四、有事下のメンタルのメンテナンス法



 科学的・身体的・思考的にメンタルを強化する四つの方法を通して、ぜひ強いメンタルを手に入れ、メンタルモンスターになってください。幸せに生きるためのちょっとした秘訣を、脳科学的に説いていきたいと考えています。最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

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