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Learned from Life History 38億年の生命史に学ぶ生存戦略
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人文・科学
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IV 生き物たちの戦略

『Learned from Life History 38億年の生命史に学ぶ生存戦略』
[著]稲垣栄洋 [発行]PHP研究所


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生き物たちのブルー・オーシャン戦略


「無駄な競争をできるだけ避けて、オンリー1の場所でナンバー1を目指す」


 この生物の戦略から、「ブルー・オーシャン戦略」を思い浮かべた人がいるかも知れない。


 ブルー・オーシャン戦略は、W・チャン・キムとレネ・モボルニュが提唱した戦略論である。彼らは血みどろの激しい競争に打ち勝つ戦略をレッド・オーシャンと呼び、競争相手のいない新たな市場を創り出す戦略をブルー・オーシャン戦略としたのである。


 ブルー・オーシャン戦略では、ブルー・オーシャンは見つけ出すものでなく、作り出すものであるとされている。ただし、市場を創り出すという作業は、誰も気づかなかった潜在的な価値やウォンツを見いだすという作業でもあるだろう。


 生物はそれ自体で、新たな環境を作り出すことはできない。しかし、どんな生物もハビタット(生息地)として利用していなかった環境に「新たなニッチ」を見いだすことはある。それが生物にとってのブルー・オーシャン戦略となるのだろう。


 レッド・オーシャン戦略は、マイケル・ポーターの競争戦略や、フィリップ・コトラーのマーケティング戦略を意識していることだろう。しかし、すでに紹介したように、これらのレッド・オーシャン戦略と呼ばれる戦略も、その基本戦略は「差別化」であった。この差別化とブルー・オーシャンの創出とはどこが違うのだろうか。



 生き物について考えてみよう。


 生き物が生存するためには、ニッチが必要である。ニッチとは、「ナンバー1になれるオンリー1の場所だ。


 前述で紹介したように、ナンバー1になる方法は、四つある。


 それは、①単純なナンバー1、②反対方向のナンバー1、③独自のものさしでナンバー1、④独特の世界でナンバー1、の四つであった。


 ナンバー1というからには、誰もが思いつく単純な一番がある。体が一番大きいとか、足が一番速いとか、戦いに強いというナンバー1が、それである。つまり、競争に強いナンバー1である。


 これに対して、「反対方向のナンバー1」もある。多くの生き物がナンバー1を目指しているとすれば、ワースト1である反対方向に活路が見いだせることがある。特に生き物の世界はトレードオフがある。限られた資源を使って戦略を組み立てているから、ある部分を伸ばそうとすれば、ある部分は犠牲になる。しかし、逆に考えればある部分を捨てれば、別の部分を伸ばすことができる。ワースト1になることは、ナンバー1になることでもあるのだ。


 たとえば体の大きな生き物は(びん)(しよう)性に欠ける。敏捷性で勝負するとすれば、もっとも小さな生き物になればいいのだ。


 この反対方向でのナンバー1は、すでに「差別化」ということがいえるだろう。


 マイケル・ポーターの競争戦略は、価格を安くする「コスト・リーダーシップ戦略」か付加価値を高めた「差別化」のいずれかを選択する。マーケティングの世界で、もっともわかりやすいナンバー1は「価格が安い」ということであろう。


 一方、価格が高いという「反対方向のナンバー1」もある。価格が高いことが、高品質であったり、高機能であるという付加価値を示すのである。


 三番目の独自のものさしで「ナンバー1」は、生物の世界では選択肢は少ないのかも知れない。寒さや乾燥などの環境ストレスに強いという要素と、変化に強いという要素が代表的なものだ。


 この寒さや乾燥、変化の度合いには、大きい小さいがある。つまり数字で表せる定量的なものだ。この定量的な要素で差別化を図るのが、三番目の独自のものさしである。


 しかし、世の中には数字で表すことのできない定性的なものもある。


 生物の世界は、エサ資源と空間を奪い合う競争である。数字では比較のできない独特のエサ、独特の生息地を確保する。


 そんな独特の世界でのナンバー1も立派なナンバー1だ。


ブルー・オーシャン戦略と島の法則



 ブルー・オーシャン戦略は、従来、重要性が指摘されている「差別化」とよく似ているように思える。


 ただし、その特徴は従来の戦略が、「コストを下げること」と「付加価値を高めること」のいずれかを選択しなければならなかったのに対して、ブルー・オーシャン戦略は競争のない市場を創り出すことによって、「コストを下げること」と「付加価値をつけること」が両立させられることにあるという。


 生き物の世界でも、似たようなことがある。


 前述では島の法則(島嶼化)を紹介した。


 天敵やライバルがいない離島では、大きな動物は小さくなり、小さな動物は大きくなる。これが島の法則である。


 大きくなることも、小さくなることも、相手があるゆえの戦略である。


 ライバルも敵もいない環境では、無理をして大きくしていたものを小さくし、無理をして小さくしていたものを大きくすることができる。


 生物には、本来、生息できる範囲を示す基本ニッチと、他の生物との関係の中で、押し込められた形で占有している実現ニッチが存在する。本当は、もっとのびのびと暮らせるはずなのに、他の生物との競争の中で、本来のポテンシャルを発揮できずにいるのだ。


 競争のない新しいブルー・オーシャンを創り出すことは、本来の基本ニッチを手に入れることにもなる。押し込められた実現ニッチの中では発揮することのできなかった本来のポテンシャルを思う存分発揮できる可能性もあるのだ。


トカゲの世界のブルー・オーシャン



 ライバルのいない新たなニッチとは、どこにあるのだろうか。


 たとえば、前述で紹介したアノールトカゲは、木の上や木の枝や木の下というように、それぞれ生息場所の差別化をしていた。この差別化は一本の木という環境の中で、互いに生息空間を分け合っている。しかし、「一本の木」という環境は限られている。この限られた中で空間を分け合い、棲み分けているのだ。


 しかし、木の外にも世界がある。それがブルー・オーシャンである。


 たとえば、トカゲの仲間では、トビトカゲというトカゲは翼を広げて、ムササビのように(かつ)(くう)する。空を飛ぶトカゲなのだ。翼を広げて、樹上から飛び立てば、今までにない新しい世界が見えることだろう。


 あるいは、地面の下に(もぐ)り地中生活を送るトカゲもいる。木の上で争っていたトカゲたちにとっては、地面の下は、まったく新しいニッチだ。


 もちろん、鳥や虫のように空を飛ぶ生き物はたくさんいる。ミミズやモグラのように土の中にいる生き物もいる。しかし、「大きな木」だけが、世界のすべてだったトカゲにとっては、空中や地面の下は、まったく新しいブルー・オーシャンである。


 もっとも、現在では空を飛ぶトカゲも実在するし、地面に潜って暮らすトカゲも存在する。つまり、空中も地中も、目新しいブルー・オーシャンとはいいがたい。


 ブルー・オーシャン戦略は、やがて競争の場であるレッド・オーシャンとなる。そのため、ブルー・オーシャン戦略では、新たなブルー・オーシャンを作り続ける必要がある。


 残念ながら、進化のレースは長い時間をかけて行われるので、私たちが進化そのものを目撃することはできない。私たちが見ることができるのは、進化の「結果」だけなのである。


 さらに、生物の世界は、あらゆる生き物たちが、あらゆる戦略を発達させてニッチを獲得している。


 しかも、限られた数の企業が、ナンバー1を競い合っている人間の世界とは異なり、自然界では何百万種もの生物種が、オンリー1のニッチを求めている

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